クレバス
齋藤 結亜(さいとう ゆあ)
山田 明璃(やまだ あかり)
明璃、僕を許さないで。貴女は優しい。他人が傷つくくらいなら自分が傷つけばいいと考える貴女。貴女は誰かが傷つかないよう、エアバッグの様になりたいと願っている。でも空気で出来てない肉塊の貴女は衝撃を受けた時、グチャグチャになってしまう。貴女はどこまでいっても肉塊でしかない。例えどんな美学を謳おうと。それでも肉塊でありながら美学を謳う貴女がとても愛おしい。貴女を人間へと呪う肉の身体から掬いたいと希う程に。
僕は貴女を救えなかった。貴女は深い絶望を抱え生きていた。クレバスの様な貴女の絶望。その一番奥に貴女の亡骸がある。貴女は貴女の亡骸を抱え生きている。この残酷過ぎる世界を。何も抱えず生きても狂いそうなこの世界を。狂わない方がおかしいこの世界を。
自分の亡骸を抱えて生きている絶望を僕は推し量れない。推し量る勇気がない。
貴女を救おうと僕は頑張った。たとえ汚くたって、貴女以外の人に非難される手段だったとしても手を尽くそうとした。
それでも、僕はこれ以上明璃と一緒にいたら明璃の抱えてるクレバスに落ちてしまう。
別にそれが怖い訳ではない。貴女のクレバスの底に居る貴女の亡骸は白百合の様な無垢な少女だ。僕はそんな少女に触れていたい。それは穢れを知らない恍惚なのだろう。燦燦たる光と共に、意識が飛ぶ様な恍惚。
でも、僕はいつか貴女が貴女自身で元に戻れない所まで行ってしまった時、貴女が居るべき所へ貴女を引き戻すために貴女のクレバスに堕ちない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます