痛くて、ここに居たい

中川 夕瞳(なかがわ ゆうひ)

松永 夏路(まつなが かろ)

 貴方からの暴力が好きだった。

 貴方は暴力でしか愛情表現が出来ない。一般の人で言う撫でたり、キスする行為が貴方は殴る行為なんだ。

 貴方は言う。

 「夕瞳が殴られてる様子を見て、ようやく私の愛が伝わってるんだ、私の愛を受け入れてくれてるんだって。殴ってようやく私と夕瞳が一つになれた、溶け合えて分かり合えたんだって」。

 貴方から愛されると痣が増える。だってロマンチックじゃない?愛された証拠が可視化されるのが。僕らなりのカフネ。誰にも伝わらないからこそ愛おしい。

 愛されて、黄色になった痣の縁を貴方の指で沿わせて言うんだ。

 「消える愛の跡じゃなくていつか消えない愛の跡が欲しい。いつか結婚する時に夏路につけて欲しい。僕らだけにしか分からない愛の跡。皆が見えるのに僕らだけしか意味を知らないって最高じゃない?」。

 僕はマゾじゃない。痛みが好きなんじゃない。僕以外が受け入れることの出来ない貴方の愛が好きなんだ。だって安心する。他の人は貴方の愛を受け入れられないんだ。それって穢れなき愛じゃない?

 貴方は本能で愛されてるって信じてる相手に暴力を受け続けてきた。心が外傷を負う程に。そして貴方は今受けてきた暴力の再演をする。貴方は言うんだ。落ち着くって。

 僕は医者じゃないからそれで夏路の心が救われてるのか分からない。それでも、貴方が救われませんように。救われて僕以外の人と生きて欲しくない。夏路が救われない限り僕に縋る。どうしようもない愛と共に。それが幸せなんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る