海が綺麗な理由

☆飛世可水(とびせかみず)

竹永蓮澄(たけながはすず)


 貴女と死にたかった。心中したかった。でも貴女は生きるべき人だから貴女と死ねない。

 貴女と僕の関係は正しくなかった。

 それでも現代社会の提示する正しさは貴女と僕を傷つけた。誰かに優しくしなさい。不器用な貴女は貴女を傷つける人に優しくして更に傷つけられた。 

 昔は他人の価値観に興味がなかった。ただ他人の価値観が僕にもたらす損得のみにしか興味がなかった。

 でも蓮澄と同じものを見て聞いて、同じ風景の中を過ごすうちに僕の世界の価値基準は僕から蓮澄になった。

 僕の嫌いなものが嫌いだったけど蓮澄の嫌いなものが嫌いになっていった。

 だから僕は蓮澄を傷つける現代社会が提示する正しさが嫌いだ。

 現代社会が提示する正しさは蓮澄の幸せを保証しないが現代社会は蓮澄や僕らに正しく生きることを強制する。そんな社会が嫌いだ。正しく生きることを強制するのなら正しく生きれば幸せになるようにしてよ。何で蓮澄が傷ついてばっかで蓮澄を傷つける、そんな間違いを犯してるやつばっか幸せなんだよ。

 ねぇ、蓮澄。ごめん。貴女は僕が幸せになって欲しいと言ってくれた。夏の日を身体の中で響かせる宝石の様な澄んだ言葉をくれた。でも僕は不幸であることがやめられないんだ。日常的に使ってる寝具に身を預けると落ち着く様に僕はこの不幸が落ち着くんだ。微温湯(ぬるまゆ)から起き上がれないように僕は不幸から抜け出せない。

 僕は僕の怠惰で貴女を悲しませてしまう。

 僕は弱いから楽な方でしか生きられない。だから僕は自ら不幸になる。弱さで貴女を悲しませてしまう。

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