第二話『七海心という男』
「ふわぁ……」
のんびりとシェアハウス内を歩きながら欠伸をする七海。少し歩いた所でふと足を止め、後頭部を掻きながら思考する。
(あれ…何しようとしてたっけ…)
いつもの通り目的を忘れてしまい、途方に暮れる。適当にゲームでもして思い出すのを待とう。そう思い、リビングへと歩く。
「えっと……そう、ゲーム。ゲーム何処だ…?」
自由人が暮らすこのシェアハウスでは、よく物がごっちゃごちゃになり目当ての物が見つからない事がある。今回も例に漏れずゲーム機が見当たらない。
どうしよう。このままだとまた何しようとしてたか忘れてしまう。
「ゲーム、ゲーム、ゲーム……」
「な〜な〜み〜さ〜ん!!!何してるんですか!?」
「…透也」
後ろから声を掛けて来た一之瀬の方を向き、名前を呼ぶ。
「はい!一之瀬透也ですよ!七海さん、何してたんですか?」
「えっと……忘れた」
「アッハッハ!多分僕が声を掛けたせいですよね?すみません!!!」
相変わらずの声量で謝る一之瀬。
笑ってたけど、一之瀬の事だから心の中では全力で反省してるのだろう。それより、本当に何しようとしてたか忘れてしまった。このまま一之瀬と話しても良いが、今はちょっと気分じゃない。
「…じゃ、俺、もう行くね」
「ちょ〜〜〜っと待って下さい七海さん!」
「何?」
「この前の食事当番サボったでしょう!?そのせいであの日の当番四葉さんに代わっちゃったんですよ!?」
「……?」
「『……?』じゃなくて!また覚えてないんですか!?」
「うん。そんな日、あったっけ?そもそも…食事当番って何?」
「そこから??!!」
一之瀬が仰け反りながら「ぐぬぬ…」と唸る声が聞こえる。
また俺が忘れてしまった出来事で皆に迷惑をかけてしまっていたようだ。いつもそうだ。何もかもを忘れてしまって、皆に迷惑をかける。反省はしているのだが、こればっかりはどうにも出来ないのがもどかしい。
「良いですか!?食事当番と言うのはこのシェアハウスでの食事を作る当番です!当番は僕達7人で回しています!その中には七海さんも入っています!この前、七海さんは自分の番だったのに食事を作りませんでした!そのせいであの四葉さんのキラキラご飯になってしまったのです!以上が僕の怒っている理由です!」
「……一之瀬」
「…なんですか?」
半分呆れた目で此方を見る一之瀬。きっと、俺が次に言う言葉を分かっているのだろう。それでも、俺は言いたいから言う。
「なんで説明してるの?」
「だあああああっ!!!!!」
一之瀬が頭を乱雑に掻きむしり叫ぶ。近距離で叫ばないで欲しい。一之瀬の声量は俺達の中では一番大きいから、正直煩い。
……あれ、何の話だっけ。
「その顔は…今まで何の話していたのか忘れた、と言う顔ですね」
「凄いね一之瀬、当たり」
「別にこの位凄くも何とも無いですが?!……はぁ、七海さんと話してると疲れます…」
「うん…ごめんね?」
思い切り失礼な事を言われるが、七海はそれすら気にせずに素直に謝る。七海は忘れん坊な分、素直で真っ直ぐなのだ。一之瀬はあっさりと謝罪され、調子が狂うと言った様子で頭を抱える。
「ん〜〜〜別に気にしてないので大丈夫です!」
「そう…良かった」
「あ、でも明日食事当番は忘れないで下さいね?明日ですからね!今日でも明後日でも一週間後でもありませんからね!今後こそ四葉さんの食事を回避したいので、よろしくお願いしますよ!!!」
「うん、分かった。忘れない」
「約束ですよ!ほら小指出して!」
「ん」
「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲〜〜〜ます!!!」
小指しか絡めてないのに思い切り腕を振られるものだから、折れるかと思った。
小指を離され七海が自身の小指を擦っていると、一之瀬は満足したのか上機嫌に「では!」と言って自分の部屋へと戻って行った。
「……」
そんな一之瀬の姿を見送った後、七海は小指を擦りながらふと呟いた。
「……なんで小指痛いんだっけ」
翌日。食卓に並んだのはスペードやクラブ等のトランプのマークが至る所に散りばめられたご飯だった。
「七海さんのお馬鹿!!!!!!!!!!!!!」
第二話 fin
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