レインボーホーム
落谷
第一話 『朝』
此処は『レインボーホーム』。
個性豊かな7人が共に暮らす、シェアハウス。
これは、そんな7人の日常物語である。
カンカンカンカン……!
カンカンカンカンカンカン……!
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン────
「煩いね!?一体誰の仕業!?」
朝から鳴り響く轟音に勢いよく部屋から飛び出したのは、二宮雄斗。超がつく程の自信家だ。今日も朝から自分の姿が写った鏡を見ながらヘアセットをしていたところで轟音が鳴り響き始めた為、思わず部屋の外へと飛び出てしまったのである。
カンカンカンカン!
「あ!起きましたね二宮さん!」
カンカンカンカン!
「皆さん中々起きないので!」
カンカンカンカン!
「もういっその事こうしてやろうと思いまして!」
カンカンカンカ──
「いやカンカンカンカン煩いね!?もう少しまともな起こし方出来ないの一之瀬くん!」
そう二宮に名を呼ばれ、えー?と首を傾げているのは、一之瀬透也。何事にも全力投球な青年だ。今日も今日とて中々起きて来ない皆を全力で叩き起す為、こうしてフライパンにお玉をぶつける等と古典的な方法を使いながら皆の部屋の前を練り歩いていたと言う。
「そんな事しなくても僕は起きるから!他の皆は知らないけど!」
「では続きを」
「しなくていいから!!!」
再びフライパンとお玉を構えた一之瀬を二宮が全力で止める。
「いやでも皆さんは起きないんでしょう?」
「それでも僕に迷惑だね!一刻も早くやめて!」
「今やめてるじゃないですか!」
「それもそうだね!」
「な、何揉めてるんです…?お、お二人共……」
「あ、丁度いい所に来たね五十嵐くん!……って、何で息切れてるの?」
二宮に首を傾げられたのは、五十嵐明。人一倍親切心のある青年だ。今日は皆の為に朝起きてからずっとシェアハウスの周りの雑草を抜いていたのだと言う。
「いやそんな事しなくていいね!?」
「いえいえ…ただの親切心なのでお気になさらず」
「気になるけど!?」
「煩いですよ二宮さん!」
「元はと言えば君の方が煩いね!?」
段々と頭痛がしてきた、と言う様にこめかみの辺りを抑えながら二宮が残りの皆の部屋の方を眺める。
こんな騒動があるって言うのにまだ起きて来ないとは、相も変わらずマイペースな人達だ。
「仕方ないね…ひとまずは僕達で朝食食べようか」
そう言い二人をリビングの方へ誘導するとふと、思い出した、と一之瀬が言った。
「そう言えば、今日の朝食は四葉さんが作ってくれたそうですよ!」
「……終わったね!」
⟡⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯⎯ ⟡
さっきとは打って変わって、いやいやと反抗しながら二宮が二人にリビングへと連れて来られる。
リビングでは鼻歌を歌いながらテーブルへ料理を運ぶ、彼の姿があった。
「良かったら手伝いますよ、カイさん」
「ありがとう明くん。コレも愛…かな☆」
「いえ。親切心です」
「ふふ、ツレないね…☆」
語尾に☆のついた彼は、四葉カイ。何事にも恋愛脳で、何かと愛に結び付けたがる癖のある変態である。
何故二宮が四葉の作る朝食を嫌がっていたのかは、四葉の運んでいた朝食を見れば一目瞭然だ。
至る所に星やハートが散りばめられたおかずや味噌汁。お米に至ってはどうしたらそうなるんだと言いたくなる程ピンクに染まっている。コレで味が美味しかったら文句もあまり言わないが、正直大して美味しくない。初めて食べた時はあの一之瀬が一瞬黙ったくらいだ。
「…と言うか、半分起きてたのにあのカンカン煩いの鳴らす必要あった?」
「無いかもです!」
「おバカさんだね!」
あまりにも一之瀬が真っ直ぐな目で見て言うが、そんな事関係なしにツッコミを入れる二宮。その後ろからのっそりと歩きリビングを通り過ぎようとしている影が見え、二宮はその首根っこを掴んで引き止める。
「何逃げようとしてるのかな?ん?三日月さん?」
「ひっ!」
怖い程の笑みを浮かべられ、小さく悲鳴を上げたのは三日月雪華。常に悲哀感の漂う青年だ。泣き虫で今も若干涙ぐんでいる。
「み、見逃して下さい…!オレにあの料理を食べる勇気はぁ……!」
「そんなの僕も同じだね!良いから来て!座って!一緒に食べるよ!」
「ふぇぇ……!」
すっかりセッティングの終わったテーブルの傍に置かれた椅子に三日月を座らせ、二宮自身も座る。他の三人はと言うと、三日月とのやり取りをしている間にしれっと座っていた。
「ここまで集まったのなら、二人にも来て欲しいな…そうは思わないかい☆」
「い、いや別に…」
「そうですよね!やはり全員揃っての朝食が一番ですよね!僕お二人を起こして来ます!」
「せめてそのフライパンとお玉を降ろして行って煩いから!と言うかいつまで持ってるのソレ!……何してるの五十嵐くん?」
「何言って…もぐもぐ…皆さんの為に…もぐもぐ…毒味をですね…もぐもぐ…」
「しなくていいから!」
どうして朝からこんなツッコんでいるんだろう。それを考えたらお終いだと自身に言い聞かせるが、この状況ではそう考えてしまうのも無理はない。正直、今すぐこの役割を放棄したい。まずこの役割をになった覚えはないが。
「う〜ん?皆して何してるの〜?」
「ふわぁ……」
「六花くん!七海くん!助けて!僕ひとりじゃ捌ききれない!」
間延びした口調で六花くんと呼ばれたのは、六花創。包容力の凄まじい青年だ。今もこうして共に連れて来た七海くんと呼ばれた方の青年をギュッと抱いて歩いて来ている。
それに対して何も反応も示さずに欠伸をしていたのは、七海心。忘却しがちな青年だ。その記憶力は鶏以下と称されているが、本人全く気にしていないそうだ。
「ん〜、良いよ〜!」
「ホッ、助かるよ六花くん!」
「気にしないで〜」
そう言いながら、六花はキッチンに行き調理道具がある所をゴソゴソと探っている。
「ん?何してるの六花くん?」
「何って〜、雄斗ちんが捌けって言うから〜。いっちょ捌いたろ〜思って〜」
「そっちの捌けじゃないけど!?その包丁今すぐしまって!」
え〜、と不服そうに包丁を調理道具入れにしまう六花。二宮はやれやれ、と溜息をつき、二人にも椅子に座る様に支持する。
「……ねぇ、雄斗」
「…なぁに七海くん」
二宮は、若干躊躇いながらも七海に返事をする。これから七海の言う事なんて分かってる。
きっと、「俺なんでリビングに居るの?」だ。
「俺なんでリビングに居るの?」
「ほらね!!!」
「うわっ!?いきなり叫ばないで下さい煩いですよ二宮さん!」
「一之瀬くんに比べたら僕の声量はどうって事ないね!」
失礼な事を言う一之瀬に軽く反抗してから、七海を椅子に座らせ、皆が席に着いた事を確認してから、『レインボーホーム』での朝食が始まった。
「皆さん、調味料は如何ですか?今なら私が適量かけて差し上げますよ!」
「貰う」
「ありがとうございます心さん!何が良いですか?醤油?ソース?塩?砂糖?どれでも何なりと…!」
「目玉焼きには、塩一択」
「了解しましたぁ!」
五十嵐が七海の目玉焼きに塩を適量かける。その様子を眺めながら、二宮はまた溜息をついて思考していた。
(全く…本当に騒がしいね此処は。食事中は黙る人が多いから何とか僕も冷静に過ごせてるけど、この後の事を考えると、嫌になっちゃうね)
「ど、どうしたの…二宮。大丈夫…?」
「いや、何でもないね。今僕は機嫌が悪いの。話し掛けないで」
「……ぃ…」
「ん?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃい!そんなつもりは無かったんだよぉぉぉお!ただオレは二宮が浮かない顔してたから元気出して欲しくってぇぇぇえ!うわぁぁぁあん!」
「げっ!?なんで泣いてるの三日月さん!?」
「うわぁぁぁああああん!!!」
「お、落ち着いて!いいから泣き止んで!?」
突然号泣する三日月を二宮が一生懸命に止めようとするも、三日月は身体の何処から出ているんだろうと思うくらい大量の涙を流している。
「あーあ……雄斗、雪華泣かせた」
「駄目ですよ二宮さん!歳上の方にはちゃんと礼儀正しく接しないと!今度僕が教えてあげましょうか!!」
「創くんが抱き締めてあげるよ〜。ほら雪華ちんおいで〜」
「雪華さん、涙を拭いて下さい!ほら、僕の服を存分に使っていいので!寧ろ使って下さぁい!」
「うぅん…!コレもまた、愛……だね☆」
「うわぁぁぁぁぁあああああん!!!!!」
先程までの静けさが嘘だったかの様に、一気に騒がしくなる一同。二宮の頭の何処かでプツンと音がし、遂に叫んだ。
「いい加減にしろお前らァァァァァァアアアアア!!!!!!!」
「雄斗、キレた?」
「何のんびりしてるんですか七海さん!うわっ、ちょっ、食器を投げないで下さい!」
「雄斗ちん怒らないで〜?創くんがギュッとしてあげよう〜」
「いやそんな事言ってる場合ですか!ガチギレした雄斗さんは手が付けられないのは皆さんご存知でしょう!」
「怒りこそパワー…パワーこそ愛……☆」
「うわぁぁぁああああん!!!!!」
「もうこの家ェ嫌だァアアアアア!!!!!」
第一話 fin
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