忘れられぬ男の影
12月の早朝。
鋭い寒風が首元から入り込み、
体温を奪い去っていく。
空は重苦しい灰色で、
今にも雪が降り出しそうだった。
ここは自宅から数駅離れた住宅街の無人駅。
駅舎の古びた木の柱や剥がれかけたペンキが、
過去の記憶を呼び起こす。
冷たい風が身にしみた。
私は、先週別れた男が住む町の駅前に立っていた。
別に未練があったわけじゃない。
よりを戻したいわけじゃない。
ただ、心のどこかが引っかかっていて、
前に進めない自分が嫌だった。
あの時、なぜあんなことを言ってしまったのか、
その答えを探しに来たのかもしれない。
新聞配達のスーパーカブが、軽いエンジン音を響かせる。
早朝特有の静けさ、そして慌ただしさが交錯した。
寂れた駅周辺をあてもなく歩き回る。
「何やってんだろ、私…」
錆びたシャッターや閉店した店の並ぶ風景を眺めながら、
急に自分の行動が馬鹿らしく思えてきた。
早く帰って、温かい珈琲でも飲もう。
そう思って駅に戻る。
無人の改札をくぐると、どこか違和感を感じた。
駅ホームのベンチに座り、帰りの電車を待つ。
周りには誰もいない。
風が吹くたびに、古びた看板が軋む音が響いた。
寒いので駅舎内に移動しようかと迷っていたとき、
電車到着のアナウンスが聞こえた。
「まもなく、電車が来ます」
無人駅なのにおかしいなと思ったその瞬間、
急に目の前が真っ暗になり意識を失った。
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