第4話 絵梨華と竜司の探索(ざまぁ回です)

□絵梨華と竜司たち


「あと少しだ!あと2層で70層到達だ!頑張れ!」

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

彼らはなんとかまだ進んでいた。


"まだ"というのは辛うじてギリギリ気力を保って、という状態だ。

すでに出てくる通常モンスターの攻撃すら、受け方を誤ると致命傷になりかねない強力なものになっていた。


登場するのは40層のボスにもなっている白騎士、黒騎士に加えて、スカルナイトやトレントナイト、ゴブリンナイトに幽霊騎士など、このダンジョンは騎士ばっかり出てくる。

そう、前回の探索で部隊壊滅の憂き目にあった相手である黒騎士も普通に出てくるし、騎士ばっかりのこのダンジョンではなんと敵も連携しながら襲ってくる。


ここは日本なのになんで?という疑問を感じたとしても、事実として出現するのが騎士ばっかりなのだからどうしようもない。ただただ敵の猛威を搔い潜り、少しずつダメージを与えて倒しながら進んで行くしかない。


どこかの異次元の物量作戦を展開できる女の子を除けば……。


「うぅ……」

「絵梨華!」

しかし、すでに限界を迎えた彼らでは、少しずつ綻びが出てきている。

特にこれまでの探索とは違和感を感じている絵梨華は。

陣形を崩してはまずいと、藤堂が危険を承知で前に出てスカルナイトを倒し、なんとか切り抜けた。


「ごめんなさい……」

「少し休憩しよう。そこの階段を下れば69層だ」

竜司の言葉に藤堂、駿河、富岡の3人は無言でアイテムを取り出し、回復に努める。すでに余計な会話をする気力は残っていない。彼らの装備にはかなりの傷が刻まれており、それがここまでの道のりの厳しさを物語っている。


そして絵梨華だ。

今までは軍隊を率いる皇一が婚約者である絵梨華にだけ追加で"応援効果"を与えていた……というか、絵梨華が要求していた。

それがなくなった今、絵梨華は自らの体の反応速度や膂力の違いへの適用を進めていた。しかし、通常の戦闘では問題なくても思考が止まりかけた状態ではイメージとの違いが出てきてしまっていた。


「チームを離れても迷惑をかけてくるなんて……」

絵梨華は自分で要求した"応援効果"であることも、自分が皇一を追放したことも忘れて嘆く。彼女にとっては皇一が弱いことが悪いのである。


「あと少し。あと少しだ」

竜司は呟く。

彼は皇一をチームから追放してさらに四鳳院家からも追放し、自らが全てを手に入れたが、それに反対したり、不満を持っている親族を抑えるためにも世界初の70層攻略の実績を欲していた。


藤堂、駿河、富岡の3人はそんな彼に父が与えた護衛兼チームメンバーだった。


そんな彼らはわずかな休憩を終え、ダンジョンを利用した名家による日本支配の強化を目指して気力を振り絞って先へ進む。

ついて来れぬものは追い落とし、不満を唱える者は力と嘲笑で押さえつけ、望む未来を実現するために。






「ようやく70層だな……」

そして彼らはようやくフロアボスのいる層へと到達した。


疲労はかなり溜まっているが、彼らは表情を明るくする。

現時点でこの世界に現れたダンジョンで70層を超えたチームは存在しない。

ここのボスを倒せば世界初の偉業となるのだ。


そして彼らには世界有数の戦力を誇る絵梨華と竜司がいる。

なんとかここまで来た。脱落者はいないし、ボス部屋に入る前にしっかりと魔力を回復して休息を取り、頭を休める。


そして入念に打ち合わせを行った後、世界で初めての偉業を達成するのは自分たちだと確信して、ボス部屋に入っていった。


そんな5人の前に現れたのは黒騎士と似たような姿の騎士……


「黒騎士か?」

「よし、散開!」

5人は慣れてきた陣形をとり、構える。


藤堂、駿河、富岡の3人が前線で守りを固め、最初の攻撃を様子見しながら受け、考えながら戦っていくスタイルはすでに自分たちのものにしていた。自信もあった。


『グオォォオオオォォオオオオオ』

しかし目の前の敵は過去の敵とはレベルの違う70層のフロアボス。

後世、この敵の初撃は全力回避。それが定石となるが、このとき絵梨華も竜司もそんなことは知る由もなかった……


「鑑定しました。あいつは暗黒騎士です。耐性もスキルも黒騎士と似たようなものが揃っています。ただ、一部回復魔法を持っているようです」

「そうですか。では黒騎士対策と同様初手は防御ですわ!」

凄まじい魔力が暗黒騎士の剣に集まる。


「くっ、あれ大丈夫ですか?黒騎士たちより遥かに大きな魔力ですが」

「自身を持つのです。私達ならやれますわ!プロテクト!マジックシールド!」

藤堂の戸惑いに勇気づける絵梨華。

彼女は全員に物理防御力と魔法防御力を引き上げる魔法をかける。


なんとか耐えてみせる。そう決意する藤堂、駿河、富岡の3人だったし、その後ろで攻撃の準備をする竜司と絵梨華だったが……


しかし現実は厳しかった。


暗黒騎士の振るった剣から放たれた衝撃は彼らがかつて経験したことがないとても強力なもの。


「うわーーーーー」

前線の3人はあっさりと切り飛ばされる……体中を切り刻まれるという、ひどい怪我とともに。


「こっ、こんなことが……」

大きな傷を負ってしまい、誰も立てず、ただただ悲壮な声がこだます。


「あ……」

そして、暗黒騎士は直前に支援魔法を使った絵梨華にも強力な斬撃をぶつけていた。

それによって大きく左足から胸にかけてを斬られた絵梨華は呆然とした表情で倒れている。


「絵梨華……絵梨華ーーーー」

1人、強力な斬撃を受けなかった竜司は剣を構えたまま動くこともできず、ただ絵梨華の名前を呼ぶ。


藤堂、駿河、富岡の3人は倒れたまま、動かない……。



「くっ、くそ……」

竜司の頭の中には撤退の2文字が浮かぶ。

すでに5人中4人が倒れ、自分1人で暗黒騎士を倒すことなど想像もできない。

世界初の偉業も、日本トップのチームのリーダーの地位も、名家の後継者としての立場も全て頭の中から零れ落として彼は、踵を返してボス部屋の入り口に向かおうとしたその時……




ガチャ……ギィーーー

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