かいとう編(快刀編)
「え、分かったの?
3本の傘の使い道」
「ハイっス! 理系のアタマでちょちょいのちょい、っスよ。
想定外の答えで驚きましたけど」
後輩はよほどの自信があるのか、不敵な笑みを浮かべている。
理系だったんだ……。
「推理が間違っていたら、連れていくつもりはないよ?」
「おれの昼メシは絶対、うなぎになります」
…………ふうん。
そこまで言うのなら――面白い。
「聞かせてもらおうか。『名探偵』」
コホン、とひとつ咳払いをして、後輩は辺りを見回した。
……俺しかいないけど。
「さて――。
疑問は『いつ、誰が、どうして3本の傘を使うのか』……っスよね。
まず『いつ』。これは『図書館への行きと帰り』っス」
俺はすぐに異議を唱える。
「傘が濡れてないって言ったのは、自分でしょ?」
「まあまあ。話は最後まで聞いてくださいよ」
……いったん、お口をチャック。
「傘が1本濡れていない理由は、後で説明します。
次に『誰が』ですけど、これは『お兄さん』っスね。
んで、最後は『どうして』ですけど……ここで問題!
あのお客さんは本の返却後、どんな風にどこへ行きました?」
「……ちょっと前に新設した、『自由研究コーナー』の方。
どんな風、って言われると……手をつないで? かな」
「そう、手をつないでたんス。妹ちゃんがお兄さんを支えてた。
つまりおれが言いたいのは、お兄さんはケガをしてるんじゃないかってことですよ。
『どうして』の答えは、『傘を杖の代わりに使うため』。
…………
なるほど…………。
「2つの傘は、雨から身を守る通常の使い方だった」
「普通に考えて、より長い黒傘がお兄さん用っスね」
「そして濡れていない青傘。
お兄さんはこれを杖の代わりにして、図書館までやってきた……ってこと?」
「筋の通った、いい推理だと思うっス」
さあ、
「――――
矛盾その1は、長さだよ。
黒い傘がお兄さんの物だって言ったよね?」
「だって、3本の中で比べると長いので……!」
「長い、つまり他のふたつは短いんだ。
赤傘と青傘が同じ長さだとすると、お兄さんはわざわざ、自分の身長に合わない傘を杖にしたことになる。
姿勢が前かがみになって、腰も悪くなると思うよ?」
「それは……使える傘がそれしか無かったとか……」
「その2。
ケガしているのなら、館内でも杖は必要になるはずだ。
なのに妹さんの手を借りたのはどうして? 傘をそのまま使えばいいのに」
「本が濡れるって……思ったんじゃ?」
「『傘が濡れてない』って言ったのは誰だっけ?」
「ぐう……」
そして俺は……満面の笑みで言ってやった。
「推理作家に向いてますね?」
「――ぐはっ⁉」
……まあある意味、後輩らしくて安心した。
これで隙のない推理をしていたら面白かったのだが、そこはまあ……あの冴えない後輩である。
「快刀乱麻を断つって……こういうのを言うんスね……。先輩が珍しくいきいきしてたような……?」
「たぶん気のせいだ」
後輩は息も絶え絶え、といった感じだ。
『理系のアタマが~』と自信満々に、
「…………理系?」
――同じ場所に詰め込まれて窮屈そうっス!
――濡れていないのは青い傘で……。
――弱点、それは水だ。
――ビショビショになって入ってきてるでしょ?
俺は窓を見る。
相変わらず降り続けている、水……雨。
「ねえ後輩。
しゃべり続けて、のども疲れたでしょ?
じゃ……バトンタッチと行こうか」
読者への挑戦だ。
ピースは全て出揃っている。
後は閃きと……ほんの少しの知識さえあれば、パズルは完成するはずだ。
では再度、諸君に問おう。
『2人の兄妹に3本の傘が必要な理由は?』
正解は次の更新で!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます