具体的心象のキネマカレンダー 氏

第1話

蜜蜂の帷子へ死の質量の組織炎症　通話機夫妻

猩紅熱引く枕辺に蝶の耳そよぐ少年恢復期　痣

納戸白髪婦人押しかくす使者青年の胸板の章

鐡骸布うち星闇へおほふ老母寝衣に寄す緞帳の焔

水と火の分離　蝋燭一本花卓子へたつ地底湖へ泛ぶ霊

ピューリタン革命史牡牛の皮剥ぎ火銃揃ひ立て指令室

内紛の線上地帯物見係手紙たづさふ　撃てり市民

郭公の声ひびく郵便車　遺産相続係争一家へ

告白室の立棺の牝牛へ白罌粟のこもり咲きて花圃

死の布達騎馬知らせ来　處女は赤髪ならず祈りき

火の天井骨梁くづれ婦人青年逃避行せり額装に

自然光地平創造の領域にアポロの記章もてり獅子人

天窓へ甕星そそぎ緞帳燃え上がり惨憺たり寝闇

地球占星術の十二室に区切られ天文館密集の椅子

薔薇の音聴きて通話口ゆ青銅の蝶翅打ちき　かへらば

釘偏愛症の箱工へ与す偽書造七十人余浅まし

溝渠へつたふ髪の毛座の写しかがみ消ぬ狂気こそうつは

檸檬輪切の車漕ぐ青年　人差指の行方へ門・墓域

吃音の愛こそ優れ尋問員喇叭管ゆ耳抑へて発話機　

ヘシオドス愛と勝利の日を切手のクピドには一銭価さへ、