第32話:シスコン・向井樹希視点
陽が暮れてとても寒くなったので、遊ぶのをやめて子ども食堂に入った。
銀子さんに抱っこされた由真と一緒に子ども食堂に入った。
ソフトボールで遊んでいた子たちも一緒だ。
暖かい子ども食堂の中はとても安心できる。
普段あまり見ない子が、小上がりでご飯を食べていた。
「あんたたちも食べちまいな、後でお腹が空いたらまた食べたらいい」
料理を作っている白子さんが言う。
「やったぁ~、もう1回食べても良いんだ」
「僕ももう1回食べる」
「私ももう1回食べる」
「後で食べるのに歯を磨かないといけないの?」
「ちゃんと歯を磨かない奴には食べさせないよ」
「「「「「はい!」」」」」
「さあ、食べようか」
銀子さんが由真と俺に夕ご飯を持って来てくれた。
四郎さんが俺と一緒に入ってきた子たちの夕ご飯を持って来てくれる。
「私ここで食べる」
ものすごく甘えたになった由真が、銀子さんの膝の上に座る。
銀子さんが怒るんじゃないかと心配になった。
派手な服のおばさんたちや背広を着たおじさたちに怒った銀子さんを思い出した。
「由真は甘えん坊だね、こんなに甘えて良いのは小学校までだよ」
「うん、小学校まで甘える」
銀子さんの膝の上に座った由真が、上を向いて銀子さんの顔を見ながら言う。
「さあ、食べる時は集中しなさい、感謝して美味しく食べなさい」
「はい、いただきます」
銀子さんに小学生の間は甘えて良いと言われた由真が、うれしそうに言う。
安心した、俺もちゃんと『はい、おいしくいただきます』と言って食べる。
お皿に乗せられている大きなハンバーグがとてもおいしそうだ。
「ハンバーグはお替りしても良いけど、野菜を全部食べてからだよ」
白子さんがお代わりしても良いと言ってくれる。
ハンバーグと一緒に煮た野菜は美味しいから嫌じゃない。
ピクルスと糠漬けは箸をつけなければ残してもいい。
俺と由真はたくさん食べられないから、ご飯は少ししかもられていないけれど、大きなハンバーグと野菜を食べたらお腹一杯になる。
「臨時ニュースをお届けします。
▲▲党の●●党首と△△議員が国会に辞職届を提出しました。
臨時ニュースをお届けします。
▲▲党の●●党首と△△議員が国会に辞職届を提出しました」
いつもアニメや面白い番組を流しているテレビが、急に別の事を流した。
「えええええ、アニメが途中で終わっちゃった!」
「ひどい、なんで、なんで」
「ぶぅううううう、はらたつ!」
「後で続きみれるかな?」
テレビの画面に見た顔が映っている。
「銀子さん、あれって、お昼に来ていた人?」
「ああ、そうだね、悪い事をしたから辞めたんだよ」
「悪い事、学生服の子たちが僕らの物を取ろうとした事?」
「それもあるけれど、立場を利用して人を脅かした事や、立場を利用してお金をもらった事がみんな知られたから、辞めるしかなかったんだよ」
「そっか、悪い事をしたら辞めないといけないのか」
「そうだよ、悪い事をしたら罰を受けるんだ、覚えておきな」
「うん、覚えておく、学生服の子たちや派手な服のおばさんたちも罰を受けるの?」
「ああ、受けるよ。
中学生の子たちは、怒られて児童相談所長送致にされるくらいで済むと思うよ」
「よく分からない」
「そうだね、学校の先生に怒られて、3日ほど学校を休むくらいかな。
ただ、派手な服を着ていたお母さんたちはもっと厳しい罰を受けるし、お父さんも仕事を辞める事になったから、遠くの学校に転校するだろうね」
「派手な服のおばさんたちの方がたくさん怒られるの?」
「ああ、大人が子供を脅かしたんだから、たくさん怒られるぞ」
お腹一杯食べた由真は、銀子さんの膝の上で寝ている。
以前はお母さんの事ばかり聞いていた由真が、銀子さんに優しくされてからは、お母さんの事を言わなくなった。
もうお母さんよりも銀子さんの方が好きなのだと思う。
それでも、由真の前ではお母さんの事は話さないようにしている。
「お母さんみたいに、10年は刑務所に入っているの?」
「お母さんは、樹希と由真を放って置いた、ご飯を作ってあげずにお金も渡さなかった、それはとても悪い事なんだ、だから10年だ」
「うん」
「だけどあの派手なおばさんたちは、脅かしただけだ。
初めてだったら、刑務所に入れられない」
「そうなんだ」
「ああ、だけど、調べたら他でもたくさん脅かしていたんだ。
しかも、さっき辞めると言っていた、高い立場の人を利用する悪質な脅しだった」
「脅かすのに悪質なのと悪質じゃないのがあるの?」
「ああ、あるぞ、テレビで取り上げるような偉い人が、その立場を利用して人を脅かすのは、とても悪質なんだ」
「悪質だから刑務所に入れられるの?」
「ああ、まだ決まっていないが、2年近く刑務所に入る事になるだろうね。
そうなるように、私たちが色々やったからね」
「銀子さんたちが色々やったから刑務所に入る事になったの?」
「ああ、そうだよ、お母さんやお父さんが厳しい罰をうけたら、中学生の子たちも反省して、悪い事をしなくなるだろうからね。
中学生の子たちのために、お父さんとお母さんに厳しい罰を与えた」
「反省しなかったらどうするの?
恨んで襲ってきたりしない、由真が叩かれたりしない?」
「由真が心配かい?」
「うん、心配、お兄ちゃんの俺が守ってやらないと!」
「そうかい、そうかい、樹希は偉い子だね」
銀子さんにほめられて顔が熱くなる。
「だけど独りで頑張らなくてもいいんだよ。
頑張り過ぎたらいけないよ、身体も心も壊れちまうからね。
一時里親だが、私たちが樹希と由真の保護者になったんだ、なんでも頼りな」
「何を頼るの?」
「ここにいる間は、私たちが守ってやる、安心しな。
施設にいる間は、施設の人が守ってくれる、大丈夫だ。
学校にいる間は、先生が守ってくれる、安心して勉強しな」
「登下校は、登下校は大丈夫?」
「登下校が心配かい?」
「うん、心配、今は俺が一緒だけど、春になったら別々になる」
「そうだね、樹希は中学生になるから別々になってしまうね。
登下校は何があるか分からないし、心配なのは分かるよ。
だけど、中学校と小学校は隣だから、登校はほとんど一緒にだよ。
施設は今も昔の集団登校だし、小学生を送ってから中学校に行くからね。
問題は下校だね、どうするのが1番安全で、樹希が安心できるか……
由真には、学童保育の放課後子ども教室に入ってもらおう。
そうすれば樹希の授業が終わるまで学校の中にいられる。
ただ、樹希には勉強もクラブも思いっきりやって欲しいんだ」
「勉強はここでやる、施設でも頑張る、クラブよりも由真の方が大事だ」
「うん、いい子だね、クラブよりも由真が大事なのは良い事だよ。
だけど、私たちは樹希と由真の親代わりだ。
安心してクラブができない状況は何とかしないといけない。
中学生や派手な服のおばさんたちには、もう一度キッチリと話をしておくとして、他に何かやられる事となると……そうだ、シナノたちが一緒なら安心じゃないか?」
「シナノたち?」
「ああ、登下校の時にシナノたちが一緒なら安心だろう?」
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