ボディーガード犬

第30話:身の程知らず・向井樹希視点

 ずっとお腹が空いていたけど、銀子さんたちに助けてもらえた。

 普段は柏原市の施設に寝泊まりして、週に1度だけ銀子さんたちの所に泊まる。


 由真はずっと銀子さんたちの所に居たがるけど、順番だからしかたがない。

 銀子さんたちの所に泊まりたい子がたくさんいるからしかたがない。


 それに、泊まらずに通うだけなら毎日でも良い。

 三郎さんが大きな車で送り迎えしてくれる。

 おやつは施設で配られた物だけど、晩ご飯は銀子さんたちが作ってくれる。


 本当は施設のおばさんが作ってくれた料理を食べないといけないのだけど、事前に言っておけば許してくれる。


 それでも、毎日はダメだと言われた。

 普通なら色々心配するから許されないと言われた。

 でも、銀子さんたちの所だけは特別だと言われ、他ではするなと言われた。


 銀子さんたちの所は子ども食堂をやっていて、銀子さんたち5人姉妹だけでなく、5人のダンナさんとボランティアの人たちがいる。


 みんなお母さん代わりだけど、由真は銀子さんが1番好きなようだ。

 節子さんも大好きなんだけど、義孝君がいるから甘えられない。

 僕には誰も同じなのだが、由真は銀子さんと節子さんが良いようだ。


 それと、由真は子ども食堂の番犬が大好きなので、毎日会いたいのだ。

 施設では犬を飼えないので、毎日子ども食堂の庭で会うのだ。


「しなのぉ~、ぎゅううううう」


「ウォン」


 子ども食堂の番犬はとてもたくさんいて、何頭いるかも分からない。

 ただ、僕たちと遊んでくれる犬は決まっている。

 由真はそのなかでもシナノが1番お気に入りのようだ。


「わぁ~い」


 由真が子ども食堂の庭を駆けまわり、シナノが心配そうに追いかける。

 由真は追いかけっこが楽しいのか、お腹が空くまでひたすら逃げ回る。

 俺も見ているだけではつまらないので、他の番犬と駆けっこをする。


 妹と番犬としか遊ばない訳じゃない。

 同じ施設の子も含めて、他の子がいる時は一緒に遊ぶ。

 ゲーム機はないが、コマやメンコ、縄跳びやビニールボールはある。


「そのコマ寄こせ、俺のもんだ!」


 学生服の子たちがやってきて、コマやメンコを取ろうとした事があった。

 みんなで仲良く使いなさいと言われているので、取られる訳にはいかない。

 だけど、ケンカをしてはいけないとも言われている。


「「「「「グルルルルル」」」」」


 いつの間にか周りに集まってきていたシナノたちがうなり声をあげた。

 学生服の子たちが小便をちびって座り込んだ。


「「「「「ウォオオオオオン」」」」」


 子ども食堂から三郎さんたちが出てきて、警察に電話した。

 直ぐにパトカーが来て、学生服の子たちを乗せてどこかに行った。

 俺の時と同じように、警察に連れて行ったのだと思う。


 その日はそのままご飯を食べて、三郎さんに施設に送ってもらった。

 鶏の唐揚げと茹でた野菜、鶏に内臓を甘辛く煮たやつ、ピクルスと糠漬け。

 全部凄く美味しかった、お腹が一杯になった。


 次の日も学校が終わってから子ども食堂に連れて行ってもらった。

 前の日と同じように、いっぱい遊んでいたら、派手な服を着たおばさんたちがやってきて、僕たちに大声で文句を言いだした。


「「「「「グルルルルル」」」」」


 直ぐにシナノたちがやってきて、派手な服のおばさんたちを取り囲んで、とても怖いうなり声をあげた、昨日よりも怖いうなり声だった。


 昨日の学生服の子たちと同じ様に、派手な服のおばさんたちも座り込み、小便をちびっていた。


 また三郎さんたちが出てきて、派手な服のおばさんたちを怒った。

 おばさんたちは耳が痛くなるようなキイキイ声で文句を言った。

 おばさんたちが文句を言ったら、またシナノたちがうなり声をあげた。


「「「「「ウゥウウウウ」」」」」


 直ぐにパトカーがやってきた。

 警察官が下りてきて、派手な服のおばさんたちと三郎さんたちに話を聞いた。

 俺たちにも話を聞いたが、おばさんたちはずっと文句を言っていた。


 三郎さんたちが警察官とおばさんたちを子ども食堂に連れて行った。

 俺たちも一緒について行った。

 小上がりに置いてあるテレビに昨日の学生服が映っていた。


 それを観ても派手な服のおばさんたちはキイキイと文句を言った。

 僕たちを指差して口汚く文句を言う人もいた。


「もう堪忍袋の緒が切れたよ、窃盗罪と脅迫罪で正式に訴えるから、逮捕しな」


「分かりました、脅迫の現行犯で逮捕します」


「なんですって、私の夫を誰だと思っているの、大企業の幹部なのよ。

 こんな子ども食堂なんて、いつでも潰せるのよ。

 あんたたちのような下っ端に警察官なんて、いつでも首にできるのよ」


「そうよ、そうよ、私の親戚には国会議員もいるのよ。

 その人の力を使ったら、こんな汚い子ども食堂なんて直ぐに潰せるのよ。

 脅迫や窃盗くらいの罪なら幾らでももみ消せるのよ、謝るなら今の内よ!」


「そうかい、その国会議員様とやらのお名前を聞かせてもらおうか?

 この辺りなら××党の○○国会議員様の事かい?

 それとも、▲▲党の△△国会議員様の事かい?

 三郎、直接電話して呼び出しな、ガタガタ言い訳するならリコールすると言いな」


「分かりました、が、電話などせずに今直ぐリコールすれば良いでしょう?」


「ろくでもない奴らだから、2人ともリコールしてやってもいいけど、関係ない方が可哀想だろう。

 それも、もしかしたら、いもしない親戚かもしれないよ」


「そうですね、呼び出します」


「……まさか……△△さんの知り合い……」


「はあ、あんな出来損ない、知り合いでも何でもないよ。

 選挙の度に後援会長が頭を下げに来るから、追い返しているだけだ。

 ただ、次の選挙では絶対投票しないように、知り合いに言うだけだよ」


「銀子さん、△△国会議員が直接謝りたいと言っています」


「あんなクソの声なんか聞きたくないよ、三郎が相手しな。

 しっかり調べて、リコール運動をするのか、次の選挙で反目に回るだけにするのか、私は今直ぐリコール運動したいんだが、どうなるだろうね」


 何を言っているのか聞こえなかったけれど、三郎さんの持つスマホが必死で何かを言っているようだった。


「△△さん、今更遅いんですよ。

 俺たちが預かっている子に手を出して、タダで済むわけがないでしょう。

 キッチリと落とし前はつけさせてもらいますよ。

 貴男の首だけですむのか、党首の首も一緒なのか、黒幕の▼▼協会長の悪事まで一緒に表にでるのか、俺も楽しみですよ。

 これで日本の公営ギャンブルが1つ無くなるかもしれませんね」


 三郎さんがスマホに話している。


「さあ、これで自分たちが何をしでかしたのか分かっただろう。

 お前たちは絶対に怒らせてはいけない人たちを怒らせたんだ。

 子供の悪さで済ませておけば、この人たちも笑って済ませてくれたのに、大の大人が出てき、しかも国会議員の権力まで使って子供たちを脅かすなんて、終わりだよ。

 国会議員が1人辞職するだけで済めばいいな」


 警察官が、さっき国会議員と言っていた、派手な服のおばさんに言った。

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