第28話:朝ご飯と犬・松浦節子視点
初めて他人の虐待に関係して、物凄く不安でした。
自分が正しいと思ってやろうとした事が、逆に子供を助ける邪魔になると聞いて、何もしない方が良いと思ってしまいました。
そんな私に、息子の義孝が活を入れてくれました。
心優しい義孝が、どうして虐待されているお兄ちゃんとお姉ちゃんを助けないのと、純真な目をして聞いてきたのです。
義孝を独りで育てるという思いは、今も変わりません。
利用できるモノは利用して、義孝を残して死なないようにする、義孝にトラウマを残さないようにすると、方法は変えましたが、想いは変わりません。
義孝に薄情なお母さんだと思われたくないのです。
金子さんに言われているので身心を壊すような無理はしませんが、やれる範囲で兄妹を助ける事にしました。
警察署の取り調べに立ち会いました。
こども病院について行って、診断にも立ち会いました。
最後に子ども食堂に戻って兄妹と夜食をとり、二階で4人並んで眠りました。
「さあ、朝ご飯だよ、お腹一杯食べな」
金子さんが、朝ご飯を食べに降りてきた私たちに言ってくれます。
入所している母子生活支援施設には、子供を助けたので帰れないと連絡しました。
金子さんも虐待されている子を助けたので帰れないと話してくれました。
母子生活支援施設には事情のある母子が入所しているので、無断外泊をしたら、何かあったのかと物凄く心配されます。
ですが今回は、虐待されていた子供を見つけて警察や病院に連れて行くために遅くなり帰れないのです、予想していた以上に応援されました。
「うわぁあああああ、おいしそう!」
小さな女の子、由真ちゃんの方が歓声をあげました。
学校行かせないようなネグレクトはなく、捨て去るような育児放棄だったので、学校の給食は食べられていたそうです。
だから普通の料理を全く知らないと言う訳ではないでしょう。
ハンバーグやエビフライ、チキンライスやスパゲッティは知っているはずです。
ですが、子供がお子様ランチをよろこばない訳がないのです。
普段の子ども食堂だと、こんな手間のかかる料理、朝から子供たち全員に公平に与えられるわけがないのですが、厨房にいる顔ぶれを確認して納得しました。
交代でボランティアに来ているおばあさんたちが、全員集まっています。
親に捨てられた餓死寸前の子供を保護したと聞いて、心配して集まってくれたのを、金子さんが上手く使ってお子様ランチを作らせたのでしょう。
おばあさんたちも、腹を立てるどころか喜んで手伝ったのでしょう。
兄妹に向ける笑顔が慈愛に満ちています。
「遠慮せずに食べなさい、お替りもあるわよ。
でも、食べ過ぎると苦しくなるから気を付けるのよ?」
女の子が食べたそうにしていたので、思わず言ってしまいました。
普段は金子さんが気風よく言うのですが、今日はどうされたのでしょうか?
「私までお子様ランチで良いのですか?」
私の前に大きなお皿のお子様ランチが並べられたので、聞いてしまいました。
「ああ、あんたが一緒に食べてやらないと、遠慮するかもしれないからね。
心配しなくても、他の子供たちの分もお替り込みで用意してあるから、しっかり食べて今日一日働きな」
「はい、いただきます」
私も義孝や兄妹に続いてお子様ランチに箸をつけました。
兄妹が箸を上手く使えるか心配でしたが、普通に使えています。
昨日聞いたのですが、今の小学校では給食の時間に箸の使い方を教わるのです。
母親と一緒の食べる事がなくても、給食の時間に教わったのでしょう。
子供用の皿が新幹線や消防車ではなくても、普通の洋食皿でも、お子様ランチは子供が大好きな料理がたくさん盛られた夢の定食です。
鶏肉で作られた煮込みハンバーグが主菜なのか、それとも鶏胸肉のチーズ入りフライの方が主菜なのでしょうか?
流石に昨日の今日では、海老をお替り分まで用意できなかったのでしょう。
フライは海老ではなく鶏胸肉ですが、物凄く美味しかったです。
主食はチキンライスとスパゲッティのどちらでしょうか?
普段と同じように美味しいですが、ほんの少しだけ柔らかい気がします。
デザートもカスタードプリンとオレンジゼリーの2つ乗せられています。
今日は特別に買ってきた卵なのでしょうか、ゆで卵が花型に切られています。
リンゴも子供が喜ぶようにウサギさんに切られています。
でも兄弟の皿だけ全体的に量が少ない気がします。
胃腸が弱っている兄妹が食べ過ぎないようにしているのでしょうか?
「うわ~、凄い、お子様ランチだ、金子さん私もお子様ランチ食べて良いの?」
朝早くから明菜ちゃんと一緒に食べに来た郁恵さんが聞きます。
今日はこんな親子が多いかもしれません。
私が先に食べているから言い易いでしょうし。
「ああ、構わないよ、お母さん方がたくさん作ってくれたからね」
ボランティアのおばあさんたち、どれほど張り切ったのですか?!
私たちが食べている間に来た人たちの8割が、お子様ランチを食べていました。
2割の人は普通の鶏胸肉フライ定食です、金子さん自分の手間を減らしましたね。
「朝ご飯を食べ終わったのなら、腹ごなしに境内で遊んできな。
昨日はヤマトたちに挨拶していないだろう。
何かあった時の為に、ヤマトたちに顔と匂いを覚えてもらっておきな」
「やったぁ~、ヤマトとあそぶぅ~」
義孝が歓声を上げるくらい喜びました。
金子さんの言う通りです、ヤマトたちボディーガード犬と仲良くなっておけば、何所にいても助けに来てくれます。
義孝が初めて金子さんたちに助けられた時も、ヤマトが側にいて義孝の心と身体を温めてくれました。
「樹希君、由真ちゃん、おばちゃんについて来て。
ここにはおっきくて賢い番犬がいるの。
何かあった時に助けてくれるから、顔と匂いを覚えておいてもらおうね」
4人で奥の勝手口から白髪稲荷神社の境内にでます。
ヤマトたちボディーガード犬は、境内の思い思いの場所にいます。
不審者が境内のどこから入って来ても、子供たちが守れるようにしています。
「ウオン」
リーダーのヤマトがひと声挨拶してから近づいてきます。
「やまとぉ~」
義孝が大声をあげて駆け寄り抱きつきます。
「ワンワンだ、おっきなワンワンがいるよ」
「おばちゃん、本当に怖くないの?」
「大丈夫よ、家の義孝も助けてもらったのよ。
義孝が抱き着いている青い首輪をしているのがヤマトよ。
今近寄ってきている金の首輪をしているのがムサシ。
その後を歩いて来ている銀の首輪がシナノよ」
「うん、分かった、本当に怖くないね」
「ワンワン、フワフワで温かい」
超大型犬のムサシは、給食以外食べる物がなかった由真ちゃんの小さな体に比べればとても大きく、由真ちゃんを胸に抱きかかえられるくらい大きいです。
普通の超大型犬だと、初めて見た子供たちは怖がると思います。
それなのに、ここのボディーガード犬たちを怖がる子供は1人もいません。
子供たちを安心させる気配を放っているのかもしれません。
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