第27話:子供心・松浦節子視点
世間知らずなのだと強く自覚している私は、傍観者になろうとしました。
金子さんたちのようになれるなんて、全く思えませんでした。
だから、金子さんたちの言われる通り、その場にいる地蔵になろうとしたのです。
「あの子たちどうなるの?」
ところが、義孝がパトカーに乗せられる兄妹を心配したのです。
その言葉を聞いて、物凄く恥ずかしくなりました。
義孝が恥ずかしく思うようなお母さんにはなりたくない、そう強く思いました。
「三郎さん、私に何かできますか?」
「無理のない範囲でやれる事は、差し入れを持って行ってやることだ」
「差し入れですか?」
「金子さんが府警の本部長と所轄の署長に話をつけているから、消化に良い差し入れを持って行って食べさせてやることができるが、どうする?」
「私が持って行っても良いのですか?」
「初めてだと勝手が分からないだろうから、俺たちと一緒に行けばいい」
「ありがとうございます、そうさせていただきます」
「あの子たち助かるの?」
義孝が不安そうに聞くのです。
「ええ、助かりますよ」
「他の子と同じように、食堂で遊べるの?」
三郎さんの方を見ると、自信満々で頷いてくれます。
「ええ、大丈夫よ、子ども食堂で一緒に遊べるわよ」
「よかった」
私の乗っていた電動自転車を、四郎さんが乗ってきた5人乗りのロングバンの後ろに乗せて、4人で警察署に向かいました。
金子さんたちの根回しはとても凄く、警察署の受付ではとても丁寧に対応され、奥の部屋に案内されました。
コン、コン。
「失礼します、府警本部長から連絡をいただいた、白髪稲荷神社子ども食堂の方々が来られましたが、入っていただいて宜しいでしょうか?」
「おう、早いな、どうしようかと思っていたんだ、入って頂いてくれ」
「失礼します、子ども食堂の三郎と言います」
「四郎と言います」
「お手伝いの節子と子供の義孝と言います」
「おっ、女の人と子供もいるのか、これは助かる。
と、その前に食べ物を差し入れしてくれたと聞いている。
温かいミルクでも取ってやろうかと思ったんだが、差し入れがあるというのを聞いていたので、まだ取っていないんだ」
警察の方たちが、私費でミルクを出前してあげようと思うくらい飢えているのに、あの鬼中年女!
「長期間空腹に苦しんでいる子供に食事を与えるのは、意外と難しいんです。
ホットミルクはなかなか良い選択ですが、子供によるとお腹を壊すんです。
お腹が空いているのだろう?
中華粥を持って来たから食べさない」
四郎さんはそう言うと、大きな水筒に入れてあった中華粥を、同じく持って来た丼に入れて、レンゲを添えて出しました。
虐待され続けた子供の中には、箸を使えない子も多いと聞きました。
そういう事も考えて、箸ではなくレンゲを持ってきたのかな?
具材がほとんど入っていないのは、胃腸が弱っている可能性を考えてでしょうか?
「本当に食べて良いのか?」
「おにいちゃん、おなかすいたよぉ~」
「ああ、いいぞ、たくさんあるが、ゆっくり食べないと吐くぞ。
妹が吐かないように気を付けてやれ」
「由真、ゆっくり食べるんだよ」
「うん」
小さい女の子はそう言うと急いで食べ始めました。
お兄ちゃん方は、妹の世話をしながら時々レンゲを口に運んでいます。
こんな風に妹をかばいながら生きてきたのでしょうか?
コン、コン
「保護司の鈴木建造さんが来られました」
「入って頂いてくれ」
「失礼します、遅くなって申し訳ありません」
ノックの音や、保護司の鈴木さんが入って来る時の音で、妹もお兄ちゃんも食べている途中なのに、ビクッとして立ち上がります。
まるで食べている所を見つかったら急いで逃げないといけないように……
私たちが入って来る時にも、同じ様に怯えていたのでしょうか?
「いえいえ、全然待っていませんよ、鈴木先輩。
今回の件は鈴木先輩が対応されるのですか?」
「俺が役に立てるかどうか分からないが、この子たちが幸せになれるように、全力で手伝うつもりだ、お前たちにも手伝ってもらうが、分かっているな?」
「ええ、分かっています、できる限りこの子たちが有利になるような調書にすれば良いんですよね?」
「ああ、被害額は正直に書かなければいけないが、子供たちの状況は物凄く大げさに書いてくれて構わない。
これから行くこども病院では、身体の虐待状況を正確に証明してくれる。
調書と診断書に差異が生じて問題になる事はない」
「それは助かります、俺たちの感覚と医者の感覚が違うので、警察官は大げさに書き過ぎると、クソ親に文句を言われる事があるんですよ」
「医者の診断書は、保険金や賠償金に関係するからな。
保険金詐欺を疑われた時に裁判で問題にならないように、断言できるような事しか書かないと聞いている」
「そのせいで、悪い奴が軽い罪になってしまう!」
「こら、こら、子供たちが怖がっているだろう」
「う、ごめんなぁ、君たちを怖がらせる気はなかったんだ。
俺たち警察は、君と妹を助けたいと思っている。
だから正直に話して欲しい、お父さんとお母さんに叩かれたりしているのか?」
「お父さんはいない、最初からいないと聞いた。
お母さんは叩かない、以前一緒にいた男は叩いたけど、出て行った」
「そうか、お父さんがいなくて、お母さんは叩かないけど、以前一緒にいた男に叩かれた事があるんだね、分かったよ。
物凄くお腹が空いているようだけど、お母さんはご飯を作ってくれないのかい?」
「作ってくれない、家にいないから作ってくれない」
「どれくらい家に帰って来ないんだい?」
「ひと月くらい」
「その間、何を食べていたんだい?」
「学校の給食」
「給食の無い土曜と日曜はどうしていたんだい?」
「公園の水を飲んでがまんしていた」
「ずっと我慢していたのかい、怒らないから教えてくれないかな?
教えてくれた方が、君も妹も助けられるんだ」
「助ける、どうやって?」
「お母さんを怒って、ご飯を作るように言う事ができる。
お母さんをどこかにやって、毎日3回ご飯を食べさせてくれるところで、君と妹が寝泊まりできるようにもできる、どちらがいい?」
「妹を、由真がご飯を食べられるようにしてくれ。
お母さんはだめだ、何度たのんでも作ってくれなかった。
どれだけ泣いてお願いしても作ってくれない、帰って来ない。
警察が言っても絶対作ってくれない、またどこかに行く。
俺はがまんできるけど、由真はまだ小さいんだ。
由真にご飯を食べさせてくれるなら何でも話す、警察につかまっても良い」
「そうか、だったらどこで何を盗ったのか、覚えているだけで良いから話してくれ。
おっと、妹の方はお腹がいっぱいになって眠くなったようだな」
「私が抱っこしてあげても良いですか?」
思わず言ってしまいました。
「お願いします、そうして頂けると助かります」
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