第15話:持ち帰り専門やきとり・高井波子視点
「軟骨入りと軟骨無しの塩つくね2本ずつちょうだい」
「はい、直ぐに包みます」
「俺は砂肝の塩4本と肝のタレを4本ね」
「はい、直ぐに包みます」
「私はネギマのタレを8本と、皮の塩を4本ね」
「はい、今焼いてます、少しおまちください」
「有るなら白肝の塩2本、まつばの塩を2本、おうぎの塩2本、鶏バラの塩2本、鶏ハラミのタレ2本、せせりのタレ2本ちょうだい」
「ごめんなさい、全部売れてしまいました」
「あっちゃぁ~、やっぱり遅かったか。
だったらもも肉の塩とタレを6本ずつちょうだい」
「はい、今焼いています、少し待ってください」
私が余計な事を言ってしまったせいで、子ども食堂は、親鶏の貴重な部位が食べられる店だと広まってしまった。
四郎さんたちが生きた親鶏を慎重にさばいて、朝びき平飼い鶏の焼鳥にしている。
養鶏場から寄付してもらったばかりの親鶏では平飼いと名乗れないが、数カ月山林で放し飼いしてからなら名乗れるそうだ。
そんな貴重な平飼い親鶏を数時間で売り切ってしまう。
その気になれば生でも食べられる新鮮で美味しい親鶏料理だと評判になった。
もちろん、万が一にも子ども食堂を閉鎖しなくてもいいように、生で売る事は絶対にない、子ども食堂で酒を飲ませる事もない、基本持ち帰りだけだ。
それなのにお客さんが日々増え続けた。
白子さんたちだけでは増え続けるお客さんに対応できず、安定した職に就けない、事情のあるお母さんたちを雇う事になった。
私も無理をしない範囲で手伝う事になり、これまでのような口の利き方ができなくなり、妙な敬語を使うようになったが、直ぐに地が出てしまう。
私よりも少し前に助けられた坂口真弓さんと真野美代さんが、子供の世話を優先しながら、子ども食堂で働くようになった。
酔客の接客をしなくていい、仕込みと販売のだけの仕事なので、心身の負担なく働けると喜んでいる。
まあ、子ども食堂の看板と一緒に『柏原警察署職員一同愛用店』と大きく書かれた真新しい看板が飾られているので、よほどの馬鹿でない限り何もできない。
実際、警察署の署員が頻繁に子ども食堂の前を巡回するようになった。
署員だけでなく、保護司や民生委員の腕輪を巻いた人たちが、入れ代わり立ち代わり子ども食堂の前を通る。
「鶏シロ3個ちょうだい」
「鶏シロは串カツしかないけど、それでも良いですか?」
「やったね、鶏シロの串カツがあるんだ、鶏シロのスープはある?」
「全部売れてしまいました」
「あちゃ~、分かった串カツだけでいいよ。
その代わりに、ぼんじり3本とあぶらつぼ3本ちょうだい。
あ、鶏シロの塩胡椒炒めができるなら、予約しておきたいんだけど?」
「すみません、鮮度を保つのがとても難しくて、予約はできないんです」
「鮮度を言われると、美味しいのが食べたいから無理は言えないね。
分かった、ちょくちょく顔を出す事にするよ」
子ども食堂は、事情の有る子供たちにタダで食べさせてあげる事を最優先にしているから、親鶏料理を売る時間は不定期だ。
それなのに遠方から買いに来る人も増えている。
何時でも子供が来られるように24時間開いているから、必ずお腹一杯食べられるようにしているから、親鶏の部位にさえこだわらなければ、いつでも何かは買える。
そんなこんなで運営資金が豊富になったのか、子ども食堂の魚料理にサバやサーモンのフライや味噌煮が出されるようになった。
ただ、子供たちは肉料理の方が良いようで、白子さんたちに抱きついてお肉が食べたいとおねだりする。
正式に働く人や少しだけ手伝う人、ボランティアで料理を手伝う人も現れて、人手が多くなったからか、子供たちの願いが叶うようになった。
子供たちの為、養鶏場から引き取る親鶏を増やしたそうだ。
猟友会仲間が持っている山林に大量の親鶏を放しているそうだ。
そこでさばいた親鶏をたくさん持ち帰るようになった。
細かく丁寧な隠し包丁を入れる事で、本来は硬い親鶏の部位も、噛み応えのある美味しい鶏肉になった。
親鶏のもも肉は、やきとりとして大人気になっただけでなく、もも肉1枚を焼いたチキンステーキや唐揚げも、他にない美味しさだと飛ぶように売れている。
子供たちも、唐揚げが主菜にでたら歓声をあげるくらい大好きだ。
子供たちが特によろこんで食べるのが、もも肉、胸肉、ささみの三種唐揚げだ。
白子さんたちは、時短よりも子供たちの喜ぶ顔を優先できるようになったようだ。
胸肉やささみにとろけるチーズを挟んだチキンカツは、子供たちの大好物になっただけではなく、やきとりを買いに来ていた大人たちにも人気になった。
大人たちは、梅肉や紫蘇を挟んだチキンカツも大好きで、子供たちに食べさせる分が減ってしまうほど、胸肉とささみが売れるようになった。
これまでは軟骨を加えていなかった子供用のチキンメンチや鶏ハンバーグも、大人用に軟骨を加えた物も作るようになった。
それがまたやきとりを買いに来ていた大人たちに評判となり、やきとりや唐揚げにも負けない売れ筋商品となった。
自分たちが美味しく食べるだけでなく、大人たちが列をなして買って行くのを見て、料理に興味を持つ子が現れた。
「白子さん、私も料理を覚えたい」
そう言いだす子が現れたのだ。
普通なら通っている子供にケガをさせて問題になるのを恐れるのだが、鉄火女の白子さんたちは世間の評判など気にしない。
「いいよ、教えてあげるからマネしな」
そう言って手取足取り教えてあげるだけでなく、形も味も料理人の白子さんたちの作った物の足元にも及ばないのに……
「初めて作ったにしてはよくできている、とても美味しいよ。
これからも作り続けたら、私たちと同じ様に上手になるよ」
手本を見せて、どれだけ時間がかかろうと下手であろうと作らせて、目の前で食べて美味しいと褒めてあげるのだ、子供たちが料理好きになるのは当然だ。
特に母親がいない子や、母親が忙し過ぎて相手をしてもらえない子は、常に白子さんたちにまとわりついて、一緒に料理をしたがるようになった。
そんな子供たちの中に、叔父さんに引き取られて育てられていると孫から聞いていた、翔子ちゃんもいた。
常に白子さんたちの側にいて、何でも手伝いたがる。
そんな子供たちは、子ども食堂で料理を作るのに邪魔でしかないはずなのに、常に笑顔でお手伝いさせてあげるのだから、白子さんたちの子供たちに対する辛抱強さと愛情には頭が下がる。
その分、私のようなボランティアが活躍できるようになった。
子ども食堂で出す料理を手伝えるようになった。
白子さんたちの手が足らない時には、子供たちに料理を教える事もある。
子供が独立してしまい、孫も近寄らなくなった人たちの中には、子供たちとの触れ合いを求めている人もいた。
そんな人が、子供たちに料理を教えられるのだ。
婦人会や老人会に声をかけて人手を集めた。
身勝手な人や短気な人が加わらないように、目を光らさないといけないが、とてもやりがいがある。
まあ、四郎さんたちのような大男が目を光らせている所で、身勝手な事をやれる人などいないと思うが、子ども食堂の雰囲気が悪くなるのは嫌なので、ボランティアに来る人は厳選している。
「すみません、家の祥子がまたお世話になっていると思うのですか?」
子供たちと一緒に料理をしていると、翔子ちゃん叔父さんが迎えにやってきた。
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