本戦
第7話 スタートバトル!
選手たちは目隠しをされて誘導されていた。誘導される場所はランダム。他の選手と近かったり遠かったり。全員が同条件などつまらない。それが理由だ。
花音も誘導されるがまま歩く。シュミレーション――いつ、どこで、誰が襲ってきてもいいように。シュミレーションは戦闘前において基本中の基本だ。
全員の顔は見た。全員強そうだった。そんな強い奴がどう動くのか。どう戦うのか。――もはやシュミレーションどころじゃない。楽しみすぎて笑みが出てしまう。
「――ここで待機していてください」
誘導係が離れる音がする。――静かだ。まるで誰もいないかのように。
無限にも思えるほどの無音。永遠にも続くかと思うほどの無音。だが花音はなんとなく分かっていた。――戦いはもうすぐ始まる。
『バトルロイヤルの始まりです。目隠しを取ってください』
無機質な声に従い目隠しを取る――。
場所は1階の食品館前。食べ物が真横に並ぶ場所。――そして対戦相手も。
「――へぇ。最初は君かぁ」
「おぉなかなかのイケメン」
身長は171cm。体重は70kg。厚い筋肉に覆われた赤髪の男。さほど大きくもない。が、花音からすれば絶望的な体格差だ。
「いきなり隣とはね。これは運命かな」
「やぁな運命」
親しい友人と話すが如く。休日の家族と話すが如く。しかし油断など毛頭ない。互いに構えた。
「さ、早速始まった!」
選手の近くには超小型のカメラ付きドローンが飛んでいる。その映像をリアルタイムでスクリーンに移しているのだ。
「あいつは……
紅剛毅。蓮花はこの男を知っていた。
その昔、蓮花がヤンチャだった時期のこと。同じ不良仲間から『裏格闘技』と呼ばれる存在を聞いていた。
裏格闘技のルールは簡単。どっちかが重症、もしくは死ぬまで殴り合うというもの。反則などない。目潰しも金的も喉打ちもアリ。そんなデスマッチが裏では人気だったらしい。
そんな裏格闘技の頂点に君臨している者――それこそが紅剛毅だ。
「20戦20勝……全て相手を死亡させている。確かそう言ってたっけ」
「す、凄い――」
「――そう、凄いの剛毅は」
――突然、蓮花の隣にドカンと女が座った。名前は
「私が運営する裏格闘技で最強の男。貴方のお姉さんも多少は腕に自信があるようだけど……剛毅の前じゃただのお嬢さんね」
「――いきなり失礼だなクソ女」
「あら、口の利き方がなってないんじゃなくて?」
バチバチと対立する2人。
「ちょ、喧嘩しちゃダメだよ」
「――最近の子は喧嘩っぱやいな」
「そうねぇ」
「バカを言うな。儂が若い時はもっと殺伐としててな――」
――隣よりもうるさくなってきた後ろ。そのおかげか頭が冷える。
「ふん。まぁ見てろよ。姉ちゃんがどんだけ強いか」
「あらそう、ならじっくり見させてもらうわ」
しかしだ。強気に出ている蓮花も、心の中では姉のことを心配していた。
(いくら姉ちゃんでもあんな化け物相手じゃあ――)
「――君には最初から注目していたんだよ?女の子なのに凄いなぁ、ってね」
「そう?私は貴方のこと――眼中に無かったけど」
「ふぅん、言うねぇ」
剛毅の格闘スタイルは
金的やローブロー、目潰し。普通なら反則となる場所を躊躇なく攻撃してくる。裏格闘技や今回の大会ではまさしく最適な格闘技といえよう。
截拳道の創始者であるブルース・リーは『実戦は6秒以内に終わらせる』と言っている。――この勝負はその文字通りとなる。
構える。ジリジリと近づく2人。射程距離は――どちらも入った。最適の距離。最大のダメージを与えられる距離に
花音に金的は意味なし。ならば目つきか喉か。だが相手もそれは警戒しているはず。まずは様子見することにした。
「――」
「――」
――最速だった。超スピードの縦拳。その初速はまるで新幹線。目で追うのは不可能に近い。
どんなに強いボクサーも『ジャブ』は当たる前提としてリングに上がる。剛毅の放った拳は、そのボクサーよりも速いジャブであった。
――拳は当たった。だが同時に花音は後ろへ体を落としたのだ。
当たったのだから振り切る。腕は棒のようにピンと伸びる。伸びきった一瞬のタイミングで――脇と首を脚で挟んだ。
『三角絞め』
反撃は覚悟していた。しかし初っ端、しかもジャブに絞め技を合わせてくるとは夢にも思わなかった。頭の中には疑問と驚きで満ちている。
確かに男と女では筋肉に差がある。殴り合いで女性が男性に勝つのは不可能に近い。だがそれは殴り合いでの話。
締め付けるだけなら女性でもできる。それでも腕なら難しいかもしれない。しかし花音は現在、脚で締め上げている。脚の力は腕の3〜4倍の力があるという。
それほどの力があれば締め上げることなど花音であれば容易。
剛毅が手を出してからピッタリ6秒。意識は静かに消え――剛毅の体は地に落ちた。
『ダウン!1.2.3.4――』
立ち上がる。滲み出てきた鼻血を親指で擦り、背を向ける。花音は確信していた。――自身の勝利を。
『――8.9.10!!紅剛毅選手が脱落しました!!黒木花音選手に1ポイントが付与されます!!』
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