第3話 絢爛たる戦士たち

しばらく歩いていると、集合場所と思われる所へたどり着いた。そこはショッピングモールの玄関。まぁ当たり前と言えば当たり前の場所であった。



「押忍!頑張ってください師範!」

「うむ」


「負けちゃダメだよパパ」

「あぁ。任せろ。お前の父親は最強だと見せつけてやるんだ」


「へいへいへーい!史上最強はどこのどいつだー!?」

「「「「フエル様ーー♡♡♡」」」」


「けっ、どいつもこいつもゴミばっかじゃねぇかよ。これじゃ張り合いもねぇ」

「そんなこと言うな。我ら一族がのし上がるためだ」


「見てろよハニー!壮大な結婚式をあげてやる!」

「期待せずに待っとくねー」

「貴様!!子供の育て方はどうなっとるんだ!?」

「そうだそうだ!!あんなチャラチャラしおって!!」

「親父には関係ないだろ!」

「そうよ!私たちと絶縁したくせに!」

「「なーーにおぅ!!??」」




……控えめに言って個性の塊のような人たちが並んでいた。しかし分かることがある。――全員強い。




「久しぶりだのう。冥王君」

「……栗原さんか」


冥王神技めいおうしんぎ。別名『武神』。日本一の空手道団体である覇武会の総帥。空手をかじってる者なら知らない人はいないほどのビックネームだ。


栗原葉流くりはらはりゅう。別名『流の体現者』。柳岡流柔術の使い手。齢80にして未だ現役の生きる伝説である。


伝説と伝説。もしくは空手の歴史と柔術の歴史。正反対とも言えるこの2人――実は仲が良いようだ。


「君もこんな俗なとこに来るんだねぇ」

「貴方こそ。もう試合には出ないと言っていたはずでは?」

「曾孫に出てくれって言われてな」

「……貴方らしい」


神技も年齢は50近く。大会で最年長トップ2はこの2人である。老齢なこともあってか、今にも戦いが始まりそうな周りと違い、どこか落ち着いた雰囲気がある。これが年の功というものだろう。


「ところで栗原さんは誰が勝つと?」

「まぁ最大手は冥王君じゃろ。ただ儂としては花音ちゃんも押したいね」

「黒木花音……あぁあの子か」

「あの子の才能は父親以上じゃ。下手したら儂でも手に余るかの」

「ご冗談を」

「そういうお主は誰が勝つと?」

「私を除けば――」


――目線の先には天を貫くほどの大男。その大きさはまるで壁。手足は丸太のように大きく、腹は鎧を来ているかのように分厚い。


「エルヴィス・ホールか……」

「ストロングマンという大会で二連覇をしている男です。単純なパワーでは誰にも勝ち目はないかと」

「はは、武の敵――といったところかの」




違う場所では2人の男がピリついた雰囲気を出していた。神技と葉流とは真逆。こちらも今にも飛びかかりそうな勢いである。


「貴様がなぜここにいる――魘魅えんみ

「いちゃあ悪いかよ――楊 詠春ようえいしゅんさんよ」


どうやら同じ中国出身……だと言うのに仲はあまりよろしくない様子だ。


「私は貴様のようなを許すことは出来ぬ」

「殺人鬼とは言いがかりだな。あれは試合中たまたま殺しちゃっただけだぜ?俺も心痛めてんだ。――あぁそういえば居たなぁ。舞花拳とかいうのを使ってたヤツ。あんたの弟子だっけ?」

「貴様――貴様だけは――」

「おいおい怒るなよ。――否定したかったら証明してみせろ。今回の戦いでな」

「――言われるまでもない!!」




見たことのある顔がいる。聞いたことのある名前がある。花音は興奮に打ちひしがれていた。


ただそれと1つ懸念点があった。


「……私って個性薄いかなぁ」

「今それ気にすることか?」




――突然だった。背筋が凍るような恐怖を蓮花は感じた。


すぐさま振り向くと――そこには男がいた。当たり前のように筋骨隆々。体格はフランシスとタメを張るレベルだ。


「……」


先程のフランシスと同じように花音を見つめている。隣にいる蓮花は眼中に無いようだ。


「――可愛いお嬢さん。僕と結婚を前提にお付き合いしない?」

「……は?」


まるでプロボーズするかのように跪いた男。花音の左手をそっと手に取る。


「僕の名前はファライ。君のような美しい女性は見たことがない。是非僕と一緒にエジプトへ行こう。君を飽きさせはしないよ」

「――おいこら」


ファライの肩を掴みかかる。


「おい、なに勝手に姉ちゃんと――」





――蓮花の顔面は吹っ飛ばされた。軽い裏拳。の、はず。だが蓮花はバイクにはね飛ばされたかのように吹っ飛ぶ。


「邪魔。消えろ」


鼻を砕かれながらも、むしろ闘志が湧いた蓮花。ゆらりと立ち上がりファライを睨みつける。


「てめぇ……ぶっ潰してやる――」



向かってこようとする蓮花に手を出して止める。


「――悪いけど、私。だから……ごめんね♡」


挑発だった。弟をぶん殴られた怒りも混じっている。ファライは挑発を受けて怒ったのか、目を血走らせながら見開いた。


「へぇ……そう。ならこの場で証明しないとね。誰が、誰より、強いかを」

「別に私はいいけど……大丈夫?自信失っちゃうかもよ?」

「ははは、面白い冗談だ」


笑っていない。笑っているが、笑っていない。青筋を立てて怒っている。放っておいたらすぐにでも殺し合いが始まりそうなほどに。



「――え、なに!?場外乱闘!?こうしちゃいられねぇ!俺も混ぜろ!!」


顔にペイントをした変なやつも混じってきた。状況はカオスそのものである。


「全員血の気が多いな」

「そういう場所なんだろ。ここは」


フランシスとマイクは楽しそうな顔をしていた。そうして花音とファライが動き出そうとした瞬間――。

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