第2話 最高の対面
徳島県。廻楽の故郷であるこの地にて戦いが行われることが決定した。
場所は『ドリームタウン』というショッピングモール。スーパーや服屋、飯屋なんかはもちろん、ゲームセンターや駄菓子屋や本屋に映画館など、ショッピングモールらしく様々な店を携えている県民御用達の場所だ。金持ちである廻楽も小さい頃はお世話になっている。
廻楽はドリームタウンを一時的に買取り戦場と決めた。敷地面積8万1200平方メートル。 建物は延べ床面積12万5000平方メートル。戦う分には申し分ない大きさ。
ちなみに終わった後は壊れた箇所などを修復して返すらしい。やろうと思えば運営できるが、やはり適材適所。仕事を取るのもどうかと思った……ようだ。変なところで律儀である。
「――なんてことない。普通のショッピングモールだね」
建物の上にある看板。『ドリームタウン』という文字を見ながら花音は呟いた。
バスに揺られて数時間。服装は自由、とのことなので私服で来た。黒のTシャツにショートパンツ、そしてタイツ。まぁ動きやすいには動きやすいが……おおよそ武道家とは思えない。
「ここ本当に買収したのかな」
「あの金持ちなら全然出来るだろ」
軽く言葉を交わす2人――その後ろには神妙な面持ちの門下生たちがゾロゾロと着いてきていた。軽いのはむしろ2人だけである。
駐車場を歩く2人の横を黒い車が通り過ぎる。ドリフト気味に急停止し車から1人の男が出てきた。
――黒い肌。軽装ながら、重戦車を思わせる体の筋肉。その太い首と分厚い体はすぐに頭の中の男と結びついた。
「まさか……『炎の男』フランシス・パターソン!?」
「え、誰?」
「知らないの!?ボクシング世界ヘビー級チャンピオンだよ!!勝ち数なんと50回!!しかもKO勝ちは44回!!今ボクシングでもっとも強い男だ!!」
「ふーん……」
過去や未来を含めるとどうなるかは分からない。だがしかし。この現代において、この今という時間において。ボクシングで最強と言える男。それこそがフランシス・パターソンである。
そんな最強の男が目の前にいる。半信半疑だった蓮花の心はすぐに立て直された。――封筒の内容は本物である、と。
フランシスが歩いている2人に気がついた。いや、初めから気がついていたのかもしれない。そう思えるほどに真っ直ぐ2人――正確には花音の方へと歩いてきた。
立ち会うは真正面。花音も分かりきったかのように頬を緩ませ立っている。立ち向かっている。
蓮花は冷や汗をかいていた。手を伸ばさなくても触れられる距離。始めようと思えばいつでも
互いに映る瞳に互いが映し出される。触れた制空権は静かに、静かに――消えていった。
「――君がか」
「こんにちはフランシスさん。今日はよろしくお願いします」
「よろしく」
強い握手を交わす2人。緊張の糸が切れた蓮花は肩を落とした。
「場所が分からないんだ。一緒に行こう」
「ですね」
2人の心は既に分かちあっていたかのようだった。既に戦い終わったかのようだった。それほどまでに顔は満ちていた。
フランシスが乗ってきた黒い車。そこから白髪の混じった老人が出てきた。
「フランシス!何してんだ?」
「挨拶だよマイク」
「そうか、迷子にはなるなよ」
「馬鹿言うな。子供じゃないんだぞ」
「そー言って東京で迷ってたのはどこのどいつだ?」
「おーい掘り返すなそれを」
仲がいい……フランシスのセコンドだろうか。軽い会話を弾ませている。
「――なるほどね」
会話も程々に、マイクという男が花音の体をじーっと見始めた。ムッとした蓮花が少し前に出る。
「ふむ――強いなガール。フランシスでも苦戦するだろう」
「苦戦?敗戦じゃなくて?」
「ははは!面白いことを言うな――こいつはあまり頭は良くないが、体は天才のそれだ。絶対に負けない。フランシスは最強なんだ」
軽い雰囲気を醸し出していたマイクだったが、今はとてつもない自信に満ち溢れている。おおよそ威圧感など出せる体じゃないはず。なのに蓮花はたじろいでしまった。
信頼のなせる技。エゴイズムとも言える自信こそが、強さの源。そう言わんばかりだ。
「――話はいいだろう。そろそろ行こうぜ」
フランシスが口を開いた。マイクはまた軽い雰囲気へと戻りしわくちゃの笑みを浮かべた。
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