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何かの飛行物が空を横切り、その影が地上をおおう。
(なんだ?)
各種センサーがホログラムモニターに表示した情報によると――民間の輸送船と爆撃機だ。
(輸送船と爆撃機? なんつー組み合わせ……。てかなんでこんなところに……?)
って思った瞬間、輸送船のドアが横にスライドして開く。そしてそこから、搭載されていた重機関銃が複数、にゅっと銃口を現した。
現しただけでなく、予告もなくバラバラと弾が撃ち出されてくる。
(――はぁ!?)
最近の民間の船って重機関銃積んでんの? おまけに軍と戦っちゃうもんなの?
呆然と見守っている間に、船から射出された銃器の弾は、いまにもダブルナインにとどめを刺そうとしていたアレイオンを牽制した。
もちろんアレイオンはひらりと身軽に回避する。
『ちょ、……誰? 無粋なヤツ――』
迷惑そうな炯の声を吹き飛ばすように、爆撃機から脳天気な声が割り込んできた。
『遅くなってごめんね~!』
何かを口に入れてると思しき、もぐもぐしながらの、その声は!
「ラスティ・ネイル!?」
次いで、そこから離艦したテクノノートが一機、スタビライザーで落下速度を制御しながら地上に降り立つ。
おそらくそれを見たパイロットは、その場で一斉に、現存するあらゆるテクノノートの情報を検索したはずだ。けど。
『……どこの所属だ?』
『見たことない型だな……』
どこか離れたところから発射された地対空砲が、輸送船をねらう。が、所属不明のテクノノートが放った迫撃砲によって、その直前にあっさり爆散した。
炯が、声を弾ませてつぶやく。
『ザザ……?』
それに応じるように、所属不明機のパイロットが静かな声で名乗った。
『オレは
(
見ればレックスまでもが、ぽかんとその機体を眺めている。
『仲間の恩人をずいぶん痛めつけてくれたみたいだな?』
突然現れた新手に呑まれていた、その場の雰囲気を引き締めたのは、たたきつけるようなレーヴィ大佐の号令だった。
『何をしてるの!? せっかくの機会よ! のこのこ顔を出した海賊どもを一人残らず殲滅してやりなさい!』
その叱咤にいち早く反応したのは炯だった。
彼女は未知の機体の背中から、容赦なくライフルの弾丸を撃ち込む。が、その機体は、理屈で考えて避けられるはずのない射撃を、紙一重で避けていった。
弾道を計算しているのだとすれば人間離れしているし、勘で動いているのだとすればさらに人間と思えない。
(んなアホな。炯があしらわれるなんて――)
『ハッハー! 相変わらず威勢だけはいいヤツラだなぁ』
機嫌よさそうに笑う海賊を、あ然として見守る。
炯だけじゃない。幾重にも周囲を取り巻いていた軍の機体から、高速移動する未知の機体を追って銃弾が斉射の軌跡を描く。
けど目標を捉えることはできなかった。
そして件の機体はと言えば、シールドで前方からの攻撃を防ぎながら、返す手で背後にあった建物の屋上を撃つ。
頭上からの狙い撃ちを試みていた機体が爆発し、真っ逆さまに落ちてきた。
(いくつ目があるんだ……?)
や、センサーのおかげなんだろうけど、あまりの死角のなさに、ついそう言いたくなる。
『おいレーヴィ、どうすんだ? おまえの手勢、オレに一掃されかかってんぜ?』
『無駄口をたたくな、海賊が!!』
からかい混じりの海賊の言葉に、大佐はぶち切れて返した。と、相手はそれを鼻で笑う。
『二十万人の犠牲の責任を人になすりつけるようなゲスよかマシだろ。――ラスティ、やれ!』
『はいな!』
海賊の合図に、爆撃機からいっせいに大量の煙幕弾が落とされてきた。
そのあたりだけでなく、基地中が濃い煙で何も見えなくなる。
とその時。ふいに『翔』の意識が身体に吸い込まれる感覚があった。
いつの間にかレックスの目で物を見ている。
手を動かしてみると、思い通りに動かせるようになってる。
(え? いきなりそんなこと言われても……!?)
あわててセンサーをいじってみたものの、何かの妨害が働いているらしく、まったく機能しない。
右も左も分からない状況の中、いきなりコクピットがガクンッと揺れた。
「は?」
おまけに何かに引きずられてるみたいな、変な感覚がある。
何かが勝手にダブルナインを動かしてる?
「なんだよ、それ……っ」
カメラの映像を確認すると、ちょうど煙幕から抜け出したところだった。
「って、え……?」
カメラの映す景色から察するに、ダブルナインは今、輸送船だか爆撃機だかのアームに吊されて運ばれているみたいだった。
「えぇぇぇ……っ!?」
ホログラム画面で、はるか遠い地上を見ながら呆然とする。
(えぇと……つまりダグと連絡を取り合った海賊が、オレごとダブルナインをお持ち帰りってことか?)
けどそんなことしたところで、このあたりは軍の縄張りだ。
すぐ追手がかかって捕まっちゃうんじゃ――
そこまで考えたところで、ハッと気づいた。
「ちょっ、ダメだ。戻れ! チェルが……!」
彼女はまだ地上に残っている。
そう訴えようと一人でジタバタしたものの、さっきアレイオンとの激戦でマイクが壊れたのか、オレの声はどうやっても通信に乗らなかった。
スピーカーは生きていて、そこからさっきの海賊の、ふてぶてしくて自信にあふれた声が聞こえてくる。
『レーヴィ――いや、ハボクックでも誰でもいいや。今この場を指揮してる一番えらいヤツ。いい
突き放すように言って、そいつはそこで声を低くした。
『だからここから先は追うな。でないと――オレ、本名言っちゃうぜ?』
(――本名?)
その不思議な脅し文句に首をかしげる。
『
かなり舐めた口をきいているわけだけど、それに対する軍の返答はなかった。
おまけにしばらくついてきていた追手が、気がついたら姿を消している。
つまり脅しは効果があったってことだ。
(なんなんだ一体……)
まぁ何がどうなってても、身動き取れないオレには関係ないけどさ。
放り出すようにそう考え、どっと脱力して座席に身を預ける。
確かなのは、オレが今『レックス』として二ヶ月暮らした場所から離れつつあるってことと、結局そこにチェルを一人残してきたってこと。
「せっかくレックス出てきてくれたのになぁ……」
何もできなかった。
あんなにがんばったのに、なにひとつ変わらなかった。
輸送機に吊されて運ばれながら、ホログラムの中で少しずつ遠ざかっていく基地の景色を、オレはただただぼんやり眺めた。
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