6
「うっひゃー」
近くに着弾した砲弾の爆発に、危うく巻き込まれそうになりつつも、何とか回避して体勢を立て直した。
しかしそのとき、センサーはさらに別のミサイルの飛来を伝えてくる。
「数撃ちゃ当たるってもんでも――」
スタビライザーに内蔵された飛行ユニットの推進力を全開にして、オレはチェルの機体から遠くへ離れた。
と、ミサイルはまるで魚の群れのように、一斉に軌道を変えてこっちを追尾してくる。
「ねぇんだよ!」
飛来する砲弾を、ライフルの斉射で防いだ。
次いで避弾のための
もちろんそれを見送ってる暇はない。ちょうどフレアを射出したところへ、待ち構えていた五機からの一斉掃射が襲いかかってきた。
一瞬前まで接地していた地点に銃弾が集中し、深く地面をえぐる。
向こうが仕留めそこねたことに気づいた時には、こっちの火器が火を噴いてた。
銃口の先で五機が頭部、胸部、腹部と次々に爆発を起こし、またたく間に戦闘不能に陥る。
さて次は?
ざっと索敵したところで、チェルの悲鳴が聞こえてきた。見れば、アレイオンじゃない別の一団が、彼女の機体を攻撃してる。
たぶん反乱分子と勘ちがいして。
「ちがうっつってんだろ!!」
飛行ユニットで飛翔したこちらを、地上から幾筋もの機銃の斉射が追ってきた。
「邪魔だ! どけ!」
チェルの方に気を取られながら、それに応戦する。その矢先。
『はい、隙あり』
炯の軽い声と共に、着地したダブルナインの前腕部に何かが巻きついた。それをカメラで捉えてハッとする。
指向性爆弾を連ねた鎖だ。
「しま――っ」
もちろん外す余裕なんかない。
鎖はその場で爆発した。
至近距離での爆発が何度も起きる。ホログラムモニターが一面真っ白になり、そして消えた。
コクピットコアへの、直接的な大きな衝撃が全身を襲う。
「あぁ、ぁ、ぁ……!」
食い込むシートベルトに骨がきしみ、歯を食いしばる。くり返し襲いかかる衝撃と痛みに、一瞬意識が遠のいた。
(あ、やばい――……)
気を失ったら動けなくなる。動けなくなったら負ける。
頭のどこかでそう考えた瞬間。
『ちが……っ、私は反乱勢力じゃ――やぁぁぁぁ……ぁ!』
必死に弁明していたチェルの機体に、誰かがオプティカルブレードの光の刃を深々とを突き立てるのが目に入った。――しかも
(チェル……!!!)
ざわっと、ものすごい勢いで全身の血が逆流する。
鳥肌立つその感触と共に、血は一気に頭に昇りきり、そこで『翔』としての意識がすぅっと薄れていった。
まるで水の中にでもいるみたいに思考がぼやける。
何が起きてるんだ?
ぼんやりと考えた、次の瞬間。
「おまえら――」
オレがしゃべったわけでもないのに、オレが声を発した。
「いいかげんにしろ……!」
そのとたん――チェルの泣きそうな声が、すがるように響く。
『カイル……!?』
子供のように、彼女は泣きじゃくりながら、くり返し名前を呼んだ。
『カイル! カイル……っ』
カイル? 誰だっけ? ……あぁ、そうか。チェルと会っていた時に名乗っていた偽名だ。
(ってことはこいつは本物の――)
レックス・ノヴァ?
ドン!
緩衝剤に防護されたコクピットが大きくゆれるほど踏み込み、ダブルナインはかろうじて残っていた右手の駆動を利用して火器を持ち上げた。
チェルの機体に群がっていた一団に向け、ライフルの連射が浴びせられる。ついでにグレネードランチャーから発射した擲弾が、正面の敵を破砕し、巻き込まれた一機共々背後の建物まで吹き飛ばした。
壁がくずれ落ちて瓦礫に埋もれたものの、その一機はまだ動く。
飛行しつつそっちに向かったダブルナインは、機体の上に着地して踏みつぶし、反動で跳躍した。
飛行ユニットで上昇しながら、追いかけてきた数機に狙いを定める。
爆発のせいでボロボロになった腕を慎重に操作し、ショットガン並みの精度でそれらを確実に撃ち落としていった。
周囲でそれを見たパイロット達が、ありえないって感じでつぶやいている。
『……ダブルナイン、さっきすげぇ爆発しなかった?』
『完全にアウトっぽかったよなぁ?』
装甲の強度が、量産型のガルムとはまったくちがうからでっす。
幽体離脱(推定)しながらもオレの意識が答えた。
(つうかこれ、めっちゃ不思議ぃー)
オレの意識は、レックスの身体を外から見る感じでどこかにいる。
(レックス? おーい、レックス?)
試しに呼びかけてみるが、『身体』はまったく反応しない。こっちの声は聞こえないようだ。
もしかしたら普段、レックスは今のオレと同じ状態なのかも。
(……え、オレ、戻れるよな? 生身の身体から追い出されてんの、今だけだよな?)
不安になっている間にも、もちろん戦闘は続いていた。
低空飛行のダブルナインをねらって地対空砲がくり返し火を噴く。それを器用に避けつつ、ライフルの斉射で応じると、自走砲車両が次々に爆発炎上した。
けどこんだけ長く使い続けたせいで、そこでアサルトライフルの弾が切れる。
たちまち襲いかかってくる三機に、レックスは大破して地面に転がっていた機体の、両腕のない上半身を持ち上げ、投げつけた。かつ、それが三機のすぐ近くに落ちた瞬間をねらって、背中の飛行ユニットを擲弾で撃つ。
推進エネルギーごと爆発したそれは、少なくとも二機を無力化した。
そのときダブルナインはすでに、残った一機に向けて肉薄している。
火器を投げつけ、正確にメインカメラを潰し――ながら左右両肩からの機関砲によって、建物の死角からこっちを狙っていた二機をあやまたず屠る。
それが弾切れになることには当然、近接戦闘用のオプティカルブレードを構えていた。
(動き、やっぱすっげぇな~……)
重力のあるコロニー内での戦闘だっていうのに、まるで宇宙にでもいるかのよう。
すべてが流れるように無駄がなく、そして容赦ない。
攻撃も、防御も、装備の切り替えも一瞬。決して止まらない。
一連の動きはなめらかで、並のパイロットの目には追えないほど。
レックスは、あっという間にその場を制圧した。
気がつけば周囲には死屍累々――もとい、無力化されたテクノノートの残骸が一面に散ってる。
その目の前に、ゆったりと炯のアレイオンが立ちふさがった。
『レックス――そろそろアタシとヤろうか?』
サドっ気に満ちたエロい声でささやく。
や否や、炯はオプティカルブレードを構えて、スタビライザーの推進力を全開にして突っ込んできた。
(うわっ、待て待て待て……!)
激戦をくぐり抜けてボロボロになってるダブルナインと、高みの見物を決め込んでいたアレイオン。
勝負になるはずがない。
そんなオレの思いをよそに、レックスは炯の光の白刃を、拾ったアサルトライフルで正面から迎え討った。
けど遅い。
気がついたときには近接戦闘の間合いに入り込まれ、鋭い突きをくらいそうになる。
シールドを展開する間もなく、レックスはそれを左の前腕で受け止めた。
腕が赤く溶けて切り落とされる。
けどこっちも即座に反撃した。
前腕部の装甲の内側から
そして次にぶつかった時、レックスはアレイオンの胸部を蹴って強制的に距離を取った。
両機ともに地面に転がった後、身を起こしたダブルナインの手には、地面に横たわるガルムから奪ったショットガンがにぎられている。
そして撃つ。
しかし炯は、理解不能の反射神経でそれを回避した。
(何で避けられるんだよ!)
全力でツッコむオレをよそに、レックスはすでに、何とか回避した炯の懐に飛び込んでいる。
そのまま超至近距離でショットガンの引き金を引いた。さすがにこれは避けられない――と思ったら、またしても弾切れ!
「ちっ」
レックスは心底忌々しそうに舌打ちをする。
炯がその隙を見逃すわけがない。
彼女はブレードを逆手に持ち替えて、こっちに突き立ててきた。
刃先がシールドを貫き、ダブルナインのボロボロの外装をえぐる。
緩衝剤が噴き出し、刃先はコクピットコアにまで届いた。
天井部からにょきっと生えた光の刃に、冷や汗が伝う。……や、オレいま幽体だけど。気分的に。
(やっば! 絶体絶命じゃん……!)
レックスの身体は無事なものの、ダブルナインの損傷は激しい。
どうにかして機体を動かそうと、あれこれ忙しなくいじるレックスの努力も虚しく、アレイオンはアサルトライフルの銃口をゆっくりとこっちに向けてきた。
(降参! 降参! 頼む! 撃たないでーっっっ)
レックスの身体にしがみつきつつ(幽体だけど!)、アレイオンを振り仰ぐ。――とそのとき。
ふいにオレの頭上が暗くなった。
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