11

 広大な空間を埋め尽くす、うねるような大歓声の中、両機共に量産型にはありえない速度で斬撃を交わす。

 五合、十合と続けて打ち合った末、十五合目くらいで、ダブルナインはスピードの僅差によってアレイオンに後れを取った。


 受け止めた光刃の勢いに負けてバランスをくずしたものの、即座に後ろに反転し、跳躍中のわずかな間に背面の姿勢制御装置スタビライザーを用いて体勢を立て直す。

 直後、間髪入れずに刃先を突き出し、アレイオンを牽制した。


 ワァァッ……! と声援が湧き上がる。

 そんな中でも、二機の間では刃を打ち交わす音が鋭く響く。


 一瞬たりとも止まらない閃光は、残像でしか見えないはずだ。


 ふいにアレイオンの薙ぎ上げた刃先が、ダブルナインの頭部装甲を破壊した。でも戦闘には支障のないレベルだ。

 カウンターで空いた相手の胴へ突きを入れるが、それは上体をひねる形でかわされる。


「何だよ、その動き!?」

 いったいどんな制御をすれば、そんな器用な動き方ができるっていうのか。

(まいっちゃうね、まったく……!)


 一度離れた光刃が、新たにぶつかる。

 ホントに殺しにかかってるんじゃないかってくらい容赦ない斬撃が、息つく間もなく――そのわりに余裕を感じさせる動きで襲いかかってくる。


 でもオレ平気。

 機体性能にそう差はない。おまけに――パイロットとしての技量にも、みんなが思ってるほどには差がないって、最近気づいたから。


オレ・・が落ち着きさえすれば、どうってことない)


『レックス』には、充分炯と互角にやれるだけの――や、もっと上の実力がある。

 なのになんで前は勝てなかったのかっていえば、レックス自身が、炯に勝つことに興味なかったから。

 レックスにとって戦闘は仕事。みかたに勝たなくても、仕事に支障はない――そんな理屈だ。


(でもオレはちがうぜ)

 レックスがどんだけすごいか、世界中の人に見てほしい。

 そして知ってほしい。

 ランキング一位は贔屓なんかじゃない。れっきとした実力なんだ……って。


 ギリギリと耳障りな音を立て、光の飛び散るつばぜり合いになったとき、オレは冷静に呼吸を整えた。

 スピードは僅差でアレイオンに分がある。でも純粋なパワーなら、ダブルナインの方が髪の毛一筋分だけ上だ。

(やれる――勝てる!)


「あぁあぁぁぁ……!」


 オレが頑張るわけじゃないんだけど。

 機体と気持ちが一体化した末の雄叫びを上げて、相手の刃をはね除けにかかった、その瞬間。


 ポーン。

 っていう軽い電子音がして、個別通信クローズドの映像通信が届いた。

 横目で見ると、ホログラム画面に炯の顔がぱっと現れる。


「……え?」

『こんな時になんだけど、あんたの大事な女の子、見つけたよ』

「えぇっ……」


 なぜそれをいま・・言う!?!?


「取り込み中だ! 見てわかれ!」

『でも彼女、あんたに会いたくないし、自分の配属とか宿舎を知られたくないって言うんだよね。……何かしたの?』

「――――……っ」


 聞かされたことにくちびるを噛む。

 拒否? ってことは計画はどうなんの? いや、そんなの置いといて。

 チェルはまだレックスにそこまで怒ってんの? 本気でもう会いたくないわけ?


 ガン! って衝撃が起きて、はねのけようとしていたブレードを、逆に押し切られてしまう。かつ反動を利用して突きにかかってきたアレイオンの刃先が、胸部装甲を深くえぐった。


「うぉ……っ」

 ――――――!

 とたん、複数の警告音が重なって響く。


 レーヴィ大佐が公共オープンチャンネルでどなった。

『何やってるの、レックス! さっきまでの勢いはどうしたの!?』

 察するにこいつもオレに賭けてんな。


「今それどころじゃねーんだよ!」

 怒鳴り返しつつ体勢を立て直そうとするが、一度乱された集中はそう簡単に元に戻るものじゃない。そしてもちろん、そのチャンスを逃す炯でもなかった。


 アレイオンのブレードは、右に左にとこっちを翻弄しつつ、一瞬の虚を突いてくる。

 光刃がこすれる残響を切り裂く一閃。

 その結果、アレイオンのブレードが、どストライクでダブルナインの胴に突き立てられる。


 大きなダメージはないとはいえ――アタフタしつつ負けたカッコ悪い映像が、全国に生中継されてしまった。


「おまえなぁ!」

『立派な作戦勝ちですが、なにか?』


 オレの怒声に、個別通信クローズドチャンネルのホログラム映像から、間延びした声が答えてくる。


『知ってると思うけど、あの子はあんたのこと何とも思ってないよ』

「知ってるけど! それがどうした!」


 いろんな意味で涙目になって言い返す。

 すると炯は、ブッと吹き出した。口元にこぶしを当てて、笑いをかみ殺す。


『……っていうのはウソ。すごく意識してる。でなきゃ絶対に会いたくないなんて言わない』

「――え?」

『金曜の夜九時にアレイオンの前に来な。その時間に、チェルもそこに行くよう何とか誘導するから』

「――――……っ」


 会える。

 そのうれしさに身体中が沸き立った。


「サンキュー!」


 この模擬戦で、一時的にとはいえオレが炯を押していたのは事実で、それは関係者にも伝わっていたみたいで、その後で色んな人から励まされた。


 そして次の任務のとき――ポリス同盟軍との戦闘において、オレは誰が見ても分かるくらいはっきりと炯よりも活躍した。


 広報部はメディアに流す戦闘時の画像を編集する必要がなくなった。

 ダブルナインを駆るレックス・ノヴァは、名実ともにランキング一位になる。全宇宙に散る無数のテクノノートとそのパイロットの頂点に、今はオレが君臨してる。


 恐いもんなんか、何もなかった。

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