その日、夢を見た。

 レックスがまだカイルって名乗ってた頃の、チェルとの何度目かのデート。


 彼女が「かわいい!」って指さしたネックレスを目に焼きつけて、その後でチェルがトイレに行ってる間に、レックスは走って買いに戻った。

 誕生日に渡そう。きっと喜んでくれる。


 そんな期待に胸を弾ませながら――オレは目を覚ます。

 その瞬間、どっと現実が戻ってきた。

 顔を手で覆い、大きく息をつく。


「はー」


 このままじゃ死ねない。せめて彼女だけでも自由に。……自由に。

 夢の中にまで浸出してきたレックスの渇望に、ベッドに仰向けになったまま、目頭の上で両腕を交差させる。


「おまえ……どんだけ好きだったんだよ――」


 昨夜、『記憶』を探りながら、願いを実現させるための計画を練った。

 といっても、オレが考えたわけじゃない。この間、カフェテリアでひらめきかけたのは、このこと。


 レックスの中にはチェルをここから脱出させて、ポリス同盟に連れて行くための計画があった。

 でもそれは頭のどこかで考えてたってだけの、漠然としたレベルだったから、実現するためにはもっと詰めなきゃならなくて――。


 生まれて初めてってくらい頭を振りしぼって考えた結果、なんとか具体的なところまで形になっていた。

(たぶんこれでいける……はず)


 ごろりと寝返りを打って、カーテンの隙間から差し込む、ほんのわずかな光を見つめる。

 計画を進めるためには、あと一度だけ、どうしてもラスティに会う必要があった――。


          *

            

 その日、カフェテリアのパンやスタンドのホットドッグ、ハンバーガーその他の食料をたんまり抱えてラスティ・ネイルに会いに行った。


 たぶんまたレーヴィ大佐に報告が行くかもしれないってとこまでは予想してたけど。

 司令部別館地下の捕虜収容施設に着いた後、この間と同じように面会の手順を踏んだところ、そこにいた数名の刑務官はそろって首をふった。


「現在あの海賊の捕虜への面会は、理由のいかんを問わず許可されておりません」

「は? なにそれ。会えないってこと?」

「はい。例外はないとの上からの伝達です」

(マジか……!?)


 それじゃ『計画』が進まないじゃん!

 内心では動揺しまくってたものの、オレはことさらえらそうに胸を張った。

「へー。でもまぁオレには関係ないな。例外どころか、いつだって特例だから」

 世の中、強く言い切ったもん勝ち!


 現に警備の兵士達は「えっ、そうだっけ?」って感じで目を見交わしてる。

「いえ、それは……」


「オレが捕虜に会うのにいちいち許可が必要なはずないだろ。敵に負けること以外、何でも許されてんだから」

 いかにも英雄っぽく言い放ち、オレは勝手にエレベーターホールに入っていった。


「いや、え、ちょ、ちょちょちょ……待ってください! せめて上に確認――」

「すればー? 時間のムダだと思うけどな」


 レックスっていう虎の威を借りまくったオレの、無意味にえらそうな言葉を真に受けた刑務官が、上に確認してる間にそこを強硬突破する。

 すべり込むようにして下層行きのエレベーターに乗ったところで。


「やっばぁぁぁぁ……!」


 しゃがみ込んで頭を抱えた。

 レーヴィ大佐だ。オレの行動を怪しんで、手をまわしたにちがいない。

(どうする……!?)


 いまラスティと話さないと、この計画は絶対に成功しない。

(こんなとこでつまずくわけにはいかねぇ……!)


 焦りと混乱でじりじりする。

 エレベータのドアが開くのと同時に飛び出し、ラスティの房の前まで走った。

 そこでドアをがんがん殴る。

「おい、ラスティ! いるか!」


 どなると、中から今にも死にそうな声が答えた。

「ひもじい……力が出ない……」

「燃料投下だ。ほら!」


 急いでドアについている配膳用の小さな穴から、持ってきた食料をすべて押し込む。――直後、ドア越しに、ピラニアの住む池に肉を落とした時みたいな音が聞こえてきた。

 自分の乗ってきたエレベーターの動きを目で追いながら、早口で言う。


「時間がない。食いながらでいいから聞いてくれ」

「ふごご(なにを)?」

「あんたに依頼をしたい。報酬は、あんたとあんたの部下達の解放。シャトルも用意する。――っつっても、この房からの脱出は自力でしてもらうけどな」


 ラスティ・ネイルは、付け合わせのケチャップやマスタードのパックを、ちゅうちゅう吸いながら返してきた。


「おもしろそうな話だね。で、依頼って?」

「徴兵された兵士をひとり、ポリス同盟に脱出させて、しばらくそこでかくまってほしい」

「一緒に脱出して同盟に連れてけってこと?」

「そうだ。追っ手がかかるだろうけど、それはオレが何とかする」

「ふぅん……」


 ラスティ・ネイルは、そこで少し考えるように間を置いた。


「当ててみようか」

「ん?」

「兵士って、女の子だろ」

「ほっとけ」

「かわいい子なんだろうね」

「だったらどうした」


 開き直って返した、そのとき。

 エレベーターの到着する電子音が廊下に響き、そこからバタバタと複数の人間の足音が迫ってくる。

(やば……っ)


「ラスティ!」

 焦ってドアの向こうに答えをうながす。と、彼女もまた早口で返してきた。

「受けるよ。あたしらが捕まってるせいでザザを悩ませるのはいやだから」

「ザザ?」

「そ、自由騎士党フリーナイツ首領トップ

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