5
徴兵された子供達を運ぶ軍艦をねらう
けど、
(どっちが正しいんだ?)
というわけで翌日、訓練の合間に、捕虜が拘束されているっていう場所に行ってみた。
こういうとき、英雄の称号は超便利。
特別な手続きとかしなくても、顔見せただけで刑務官が飛んできて案内してくれるし。
「レックス・ノヴァ……!? うわっ、本物だ!」
「オレ初めて見た!」
「オレもオレもっ」
「あ、こっち向いた! いつもテレビ見てます~っっ」
って、目ぇ輝かせて手を振ってくるのが全員どう見ても五十歳越えのオッサン(軍人)だってことはさておいて。
「すみません。ここ娯楽が少なくて……」
地下に向かうエレベーターに乗り込んでから、先導に立った刑務官が頭をかきながら言う。
捕虜や囚人を拘留している収容施設は、基地内の司令部別館の地下にあった。
何層にもなっていて、海賊の幹部が放り込まれてる房は一番下の階――特に厳重な監視を必要とする囚人用の独房らしい。
「海賊への堂々のリベンジ、テレビで見てました。『ロータスの惨劇』で犠牲になった二十万の市民たちも、きっと天国で喜んでいることでしょう」
「あぁ……」
そういえば、そんな事件があったんだっけ。
思い出して、ふと訊ねてみる。
「ちょっと記憶が曖昧なんだけど……、『ロータスの惨劇』を起こした海賊って、本当に
「そうですよ。自分達の退路を拓くためにコロニー・ロータスを砲撃したんです。――
「そっか……」
「おまけにその後、極悪非道な所業に鉄槌をくだそうとしたレックス・ノヴァをも撃墜した。……とてもショックでしたし、ずいぶん心配しました」
「そりゃ……すまなかったな」
「いいえ! こうして復活して、見事に連中を蹴散らしてくれたんです。――きっと近々、海賊どもを根こそぎ退治してくれると信じています!」
「あー、……うん」
曖昧にうなずいたとき、エレベーターは最下層に着いた。軽い電子音と共にドアが開く。
全面灰色の装材で覆われた施設は、思ったよりも清潔できれいだった。味気ない無機質な作りを別にすれば、当座の時間を過ごすのに、特に不自由はなさそうだ。
廊下の両脇には等間隔に、小さなのぞき窓のあるドアがずらりと並んでいる。
刑務官は、そのうちのひとつの前で立ち止まった。
「――ここです。窓を開けますか?」
「頼む」
オレがうなずくと、刑務官はドアののぞき窓を開ける。
そこから房の中を見てみると、せまい部屋の中、ほっそりとした影が、壁を背に片膝を立てて床に座り込んでいた。
ゆったりとした迷彩柄ズボンの上に、タンクトップ。その胸はリンゴくらいの大きさにふくらんでいる。
「……女?」
黒くて長い髪が肩をおおっている。うつむいていてて顔はよく見えないけど、まちがいない。女だ。
刑務官がうなずいた。
「先日討伐した、
「かっ……」
(カッコいいじゃねぇか……!!)
思わず心の中で叫んだ。
アレだ。犯罪組織を束ねる若い女ボス。仲間たちから姐さんとか呼ばれて、恐れられつつ慕われてる系だ、きっと。
ワクドキしながら刑務官を振り返る。
「あの、真ん中にガラスの壁がある的な形で面会することってできる?」
「は?」
「ほら、よくドラマとかであるじゃん。小さな穴がたくさん空いたガラス越しに座って話す、あれだよ」
丁寧に説明したのに、刑務官はよく分からないって感じで首をかしげた。
「ここは重犯罪人用の収容施設なので、面会用の設備などは特にありません。話したければどうぞ中へ」
「えっ!? 中に入んの!?」
「カメラで監視します。襲われるようなことがあれば、止めに入りますので」
さらりと言われたことに動揺しまくる。
「中にいんの海賊だろ!? 前科二十犯の凶悪な姐さんなんだろ!?」
指をさして訴えるオレに、刑務官はさわやかに笑い、朗らかに言った。
「大丈夫ですよ。かなり弱ってますので。おとなしいものです」
(弱ってますって……、薬か何か打ってんの?)
やばい――と冷や汗をかきながら立ち尽くす。
なんか軽い気持ちでとんでもないとこに来ちゃったかも。
きょどっている間に、刑務官は鍵を開け、ガチャッと音を立てて重々しいドアを押しやって入るための隙間を作った。
「はい、どうぞ」
「…………どうも」
ここまで来て、やっぱやめときますとは言いにくい。
覚悟を決めて、オレはそぉっと中に入った。
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