3
怒濤の『記憶』の回想が、波が退くように過ぎ去っていく。
それと同時に喧噪が戻ってきた。
気がつけばここは基地内のカフェテリアで、周りには人がいっぱいいて、オレとチェルはたまたま鉢合わせたってだけのなりゆきで向かい合っていた。
丈長のシャツの下にショートパンツをはいて、黒タイツにスニーカー。
目の前に立つチェルの、すんなりした私服スタイルをドキドキしながら見つめる。
レックスが好きだった子だと思うと、オレの目にもチェルは特別に映った。
マノンやアイドルの子達みたいな媚びがない。
顔はかわいいんだけど、全体的な雰囲気はまっすぐで、きりっとしている。
(レックスが惚れこんだの、すっげぇわかるわー)
心の中で言いながら、彼女に向けて一歩踏み出す。
オレ達が知り合いだって知らない周りのやつらは、なんのツーショットだ? って感じで、不思議そうな顔で眺めていた。
肝心のチェルは、思いつめたようにじっとこっちを見上げてる。
そして、言った。
「……ケガ、治ってよかったね」
(わ、声もかわいー……)
そんな感動に胸がうずく。
「ずっと見てたよ。レックスのこと」
「え……?」
「カイルの正体をいきなり知らされて、びっくりして、色々ひどいこと言っちゃったけど……、その後で大ケガしたってニュースで見て、すごく心配した――」
(――ん?)
「わたし、カイルのこと――レックスのこと、何も知らなかったんだなって気づいて……、本当はどんな人なのかなって気になって……、だから復帰してからのレックスを、ずっと見てた」
「チェル……」
何かいい感じじゃね? 謝り倒す必要なさそう?
期待した、その瞬間――かわいい顔が容赦なくゆがんだ。
「したらもう、前以上に『ないわー』って」
「え?」
ぽかんと返すオレの前で、チェルはうんざりって感じで、ため息をついて首を振る。
「カイルはどっかに引っ越したんだって思うことにする。だからいまこの瞬間から私達は赤の他人。そういうことにして。……じゃあね」
そのとき、オレはようやく気づいた。
復帰以降ずっと見てたレックスって……、――それ
気がつくや、離れていこうとするチェルの細い肩をつかむ。
「あの、ちょっと――」
そのとき。
振り向いたチェルは、肩にあったオレの手を勢いよく払い落す。
それから返す手で、ぱぁん! って、いっさいの手加減なく張り倒してきた。
ほっぺたが、じんじんと痛んで熱を持つ。
「気安くさわらないで! あと、もう二度と私に話しかけないで!」
どなりつけると、彼女はぷいっと前を向き、すたすたすたと歩き去る。一秒でもこんなとこにいたくないって感じの早足で。
たまたま居合わせたらしい炯が、少し離れたところで、きょとんとつぶやいた。
「……なにこの公開処刑」
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