第1話 人生の転機と謎の課題
病院から退院し、アパートに戻って大家さんの部屋に入った。女性の部屋の中に入るのは初めてなので、緊張(?)する。
「あの、そもそも何であの時にあんなこと言ったんですか?」
純粋に気になって聞いてみる。すると大家さんは
「あなたをほっぽり出しておくといつ変なことするか分からないし。お目付役とでも言うか
、そんな感じ」
なるほど、あまり納得はしたく無いが確かにそうだ。社畜時代はまともな食事を摂ることがほぼ無く、ほとんどの食事をゼリー飲料かサプリメント、良くてカロリーメ○トで済ませていたぐらいだ。
「じゃあ俺は何をすればいいんですかね?」
食事に関しては自分は無知にも程があるので、大家さんに任せるとしよう。なら何かしら別の形で返さなければいけない。
「うーん、一通り家事は私がするから、特にこれってのは無いね。あ、でもしばらく再就職なんか考えないで」
一蹴された。一瞬で一蹴された。これ以上無理をするなという意思表示なのは分かるが、流石に何もしないというのは面目ない。
「流石に何もしないってのは申し訳ないですよ。何かありませんかね」
「難しい質問ね……そうだ。あなた技術力はあるんだから、私がプロデュースしてあげる」
「プロデュース?」
何をするのか皆目見当がつかない。プロデュース?俺の何をプロデュースするのか?
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「ひとまず、これを読み解いて勉強してみて。終わったら声かけて」
「これは?」
「アーティストになる為の勉強するために用意した本」
俺の目の前には、何冊もの本が重ねて置かれていた。
「アーティストって言っても、俺なんの知識も経験もありませんよ」
学生時代、音楽経験もなければテストでも平凡な結果だった。なのになんでアーティストなのか、さっぱりわからない。
「逆逆、知識や経験がない分、新しい事を習得するのにはうってつけなのよ」
そう言われるがまま、勉強を始めることになった。
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(ボカロP?DTM?聞いたことがない単語ばかりだな)
今までサブカルチャーに触れてきてなかった分、この手の知識は皆無に等しかった。それでも検索しながらどういうものか学び、一通り渡された本は読み終えた。
「読み終わりましたよ。分からない単語とかいっぱいありましたけど」
「最初は誰も無知から始まるのよ。そこは気にしない。じゃ、次はここにある通りにパソコン使ってやってみて」
褒められた。何にたいしてかは分からないけどとりあえず褒められた。そしてすぐに次の課題、パソコンを使ってやる?何を?
「必要なものはすでにインストールしてあるから、そこは自由に使って」
そう言われてパソコンを立ち上げると、色々なソフトがすでに入っていた。中にはさっき見たボーカロイドなるものも入っている。見ただけじゃ流石に分からないので、色々開きながら、貰った本も読みながら、頭の中に出てきた情報をまとめてみたら、
・パソコンを使って作る曲をDTMデスクトップミュージックという
・その中でもボーカロイドという音声合成ソフトを使った曲作りを行う人をボカロPと呼ぶ
・パソコンと専用のソフトさえあれば、ボカロ以外の曲も普通に作ることができる
ということが分かった。
まずは基本の音階を入れて、正常に使えるかどうかを確認する。まずは打ち込みの方でピアノの音でしてみた。普通にちゃんとドレミファソラシドを奏でられた。次にボーカロイドで打ち込んでみる。
『ドーレーミーファーソーラーシードー』
無事に歌ってくれた。自分が歌わずに他の何かに歌ってもらうというのは新鮮だった。ひとまず報告。
「とりあえず使い方しっかり確認して、試しで軽くやってからうまくいきました」
「そう、じゃあ最後の課題。これと全く同じように打ち込んで、ボーカロイドに歌わせてみて」
そう言って渡してきたのは、動画サイトに投稿されている一曲のボカロ曲。この曲に使われている楽器や音を分析して、全く同じように作ってみろとのことらしい。
(最後の課題むずすぎんか?)
そう思ったところ
「一応期限は一週間。それで一度出来を聞いてみて、違ったりしたところは正解発表として私が教えるから」
なるほど、これの出来栄えで相応しいかをチェックするようだ。とりあえず作業場に戻る。
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一度曲を聞いてみたが、良心なのか曲のチョイスは難しすぎないいい塩梅の曲だった。あとはソフトへの打ち込み方だが、どこをどう言った順番で入れればいいか、そこの検討から始まった。本を見てもザックリとしか書いていなくて、ウェブサイトで調べてみても打ち込み方は書いてあるが順番までは書いていない。
(とりあえず聞こえた音から順番に打ち込んでみるか)
そう決め、まずは一番最初に聞こえてきた音を曲全体で追いかけて、音を打ち込んでいく。同様の手順で他の音も打ち込んでいく。一通り入れたところで試しに流してみる。すると、元の曲と遜色ない曲が流れてきた。
(入れる順番は関係ないのか)
そう予測し、あと少しだけ調整して耳当たりがいいように仕上げる。そうして、最後の課題の準備は終わった。あとは聞いてもらうだけだ。
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期日の日、大家さんに俺が打ち込んだ曲を聞いてもらう。初めて一曲通して作業したものなので、うまく行ったか少し心配した。だが
「うん、合格。しっかり原曲の本質を捉えられてるし、教えてもいないアレンジまで上手く使いこなしてる。100点満点だよ」
と、手放しに褒めてくれた。今までそこまで他人に評価されたことがほとんどなく、個人的には嬉しいが、1つだけ憶測が生まれてしまった。
「褒めていただくのはありがたいんですが、初めてだからって過大評価してませんか?」
俺がそんな事を聞いてみると
「ううん。特にそんな事はしてないよ。私が選んだ曲、実はかなり難しい曲を選んだの」
「え!?あれで難しい曲なんですか?」
「そう。普通の人ならまず出来ないし、そこそこ出来る人でも2週間ほどはかかる。そこをあえて1週間にして、どれだけ音楽のセンスがあるかを試したかったの。半分いけば上出来だと思ってたんだけど、まさかそこを余裕で越していくとはな〜」
といい、俺に才能があるということまで暗に話していた。
「あの、大家さん。あなた一体、何者なんですか?」
すかさず疑問に思った事をぶつける。これだけ音楽のことを話せるのは、初心者ではまずありえない。更に本や機材でも質の高いものを渡してくれた。そんな人、ただの音楽マニアというわけがない。
「勘がいいね。いいよ、ここに住んでる人たちの中で、特別にあなたにだけ教えてあげる。私は____」
ここから、俺の生活が大きく変わっていく気がした。
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あとがき的なのはこの後も投稿入れるので最後にまとめて書き残しておきます
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