四枚目
彼女との音信不通の期間は二週間だったけど、僕にはその時間が永遠に思えた。それまで毎日やり取りをしていた相手から急に連絡が止まったのだ。フォローしていた彼女のアカウントには更新が無く、送ったメッセージは既読すらつかない。直接顔を合わせない関係性は想像以上に希薄で、力強く構えていられるほど強くはいられなかった。毎日スタンプを送っては返信の確認を行い、落胆した。
だから、返信が来た時に最初に浮かんだのは安堵だった。通知の数字が四つ増えているのを確認して、安心感と共にトーク画面を開いた。
直後に来たのは、フェラーリにでも轢かれたかのような衝撃で、その後に来たのは何だったのだろう。あまり記憶がないんだ。
スクリーンショット四枚分の別れを告げる長文だった。要約すると、同じクラスの男子に誘われ、好きになり、処女を捧げたという内容だった。文章の締めには、「遥人くんがどれだけ私のことを好きかはわからないけど……」という文言が書かれていた。
震える指で「友達に戻ろうか?」と打ち込んで、えずいた。この期に及んで嫌われまいとする行動を取ってしまうのが、僕だよね。口汚く罵って関係性を切ってしまえば楽なのに、混乱していた頭はまだ続けることを願い続けていたんだ。
SNSを開く気力もなかった。見知ったフォロワーに別れた理由を連絡してひとしきり愚痴を吐くことも考えたんだけど、タイムラインを見ただけで気分が落ちると思った。そして、スマホの電源を落とそうとした瞬間、通知欄に残った新着メールが目に留まったんだ。そう、亜貴ちゃん、君からのメールだった。
今思えば、これは最低の行為だったよね。身勝手に終えた相手にすがるなんて。あまりにも独りよがりで、どうしようもなく無様な行いだ。
それでも、襲ってきた現実に耐えきれなくて、安心できる場所を求めたんだ。どんな反応でもいい。いっそ幻滅してくれ。叱ってくれ。最低だとなじってくれ。そうしないと、捨て鉢の感情が向かう先がなかった。
「浮気されて、フラれた」
「だから言ったじゃん!」
「ごめん……本当にごめん……」
普段なら僕の不幸話をおちょくっていた君が、その日だけは真剣だったね。僕に寄り添い、僕を否定することなく、相手と関係を切った方がいいとキッパリ返信してくれた。学生のうちからの性交渉は、君が度々言っていた「責任」から外れることだったんだね。
別の人を好きになってしまったのは僕も同じなのに、同じ気分を君が味わっていてもおかしくなかったのに。普段顔を合わせて話していたから、文章で君の気持ちを読み取るのは難しかったよ。
「数年経てばきっと笑い話になるから元気出せ!」
別れを切り出したのは僕。彼女の忠告を無視して突っ走っていったのも僕。それなのに、君は僕を嫌わなかった。長年の関係性を裏切ってしまったのに。
自己嫌悪で心が傾いていた。ただ、崩れはしない。ピサの斜塔みたいに。
僕が返信するより前に、君はこう送ってきたね。
「どうせ帰ってくると思ったよ」
それから、君にきちんとやり直そうという言葉を告げることができたのは、確か六日後のことだった。
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