五枚目

 ここからは、つまり、君に別れを告げたきっかけになった話だ。僕が大学生になり、訪れたカラオケボックスで、女友達にこう言われたのだ。


「それって、付き合ってる意味あんの?」

「いや、ずっと一緒にいるし、僕はまだ好きだし……」

「それ、本当に好きなの?」


 僕は君とやり直してからの三年間を思い返した。

 あれから僕たちの関係は何も変わらず、僕は派手なアプローチをするのをやめたね。僕の好意を受け入れてくれる女性が、あの彼女のように音信不通になるのがこわかったんだ。それに、君に対する罪悪感がどうしてもぬぐえなかった。


「君のそれはさぁ、愛というよりは崇拝なんだよ。話聞いてる限り、相手の子はめっちゃ塩対応だよ?」

「でも、ちゃんと構ってくれるし……」

「うちに言わせると、君のそれは呪いだよ。その子のためにもならない。他の恋を探した方がいいと思う」

「呪い……」


 君は成人を機に、僕のことを周囲に「彼氏」として紹介してくれるようになったね。それまでは、僕と付き合っていることすら内緒にしていたみたいだったから、添え物のサラダになれたみたいで嬉しかった。

 でも、呼び方が変わっても、何も変わらなかった。何も。何も。何も。


「何年付き合ってるんだっけ?」

「……五年くらい」

「五年でキスすらしてないのは、もう無理だって。無理だよ」


 僕が君に抱いていた感情は、恋慕ではなかったのかな。君はどう思っていたのかな。君の方を向いていれば気が楽で、君に従っていれば幸せだった。それが初恋の産んだ「呪い」なら、僕はどうしようもなく強い呪詛を浴びていることになるけれど、君にその自覚はあったのかな。


 大学生になると同時に頻繁に街に行くようになり、自発的に移動する機会も増えた。田舎の景色を眺める時間も徐々に減っていった。もう子供ではいられない。心がそう告げたんだ。

 ヒトが大人になるのは、何かを受け容れた時なのかもしれない。動かない足のコンプレックスは、少しずつ収まっていったけど、それでも未だに「君以外に愛されるのか」という不安が顕在化して残っているんだ。それでも前に進むしかない。しっかりご飯を食べて、生きねばならない。だから、決めたんだよ。

 君からの返事はひどく単純で、思わず拍子抜けしてしまったよ。


「やっと解放されたわ! もう帰ってくるなよ?」


 ねえ、僕のこと捨て犬だと思ってた?

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