Ⅲ 常人離れの騎士達(4)

 その他にも操舵手よりデカい巨人みたいな隊長率いる陸戦部隊という特殊な精鋭達がいたりもするし、他のヒラ団員達だって大なり小なり俺よりも武芸に秀でている。


 それに武芸はそれなりでも、ものスゴイ特殊能力を持った人材なんてのもいる。


 例えば、プロスペロモ・デ・シオスっていう禿頭の爺さんや、黒髪のオカッパ頭をトンスラ(※頭頂部のみを剃る)にしたイシドローモデ・アルゴルタさんは、その髪型からも察する通り、もともとはプロフェシア教の聖職者なのだが……。


「昨夜、港に泊まる船が海賊旗を上げる夢を見た。これは賊に動きがあるという暗示やもしれぬ」


「やはり。拙僧の占いでも一両日中に動きがあると」


 そんな会話を交わしているように、プロスペロモの爺さんは予知夢を見ることができるらしいし、イシドローモさんは先祖伝来の〝鳥占い〟で的確に未来を言い当てることができるとのことだ。


 また、戦闘要員としてではなく、上の命令を各部署へ伝えたり、書簡のやりとりなんかを担う伝令官として羊角騎士に叙されたアイタ・イーデスという青年は……。


「──ほっ、ほっ、ほっ、ほっ…任務、ご苦労さまっす!」


「あれ? おまえ、さっき出てったばかりじゃないか。忘れ物か?」


 ある日、俺がオクサマ要塞の門番の任についていると、つい先程、総督府へお遣いに行くと出て行ったアイタがもう帰ってきた。 


 総督府はサント・ミゲルの街の奥まった場所にあり、海岸部のオクサマ要塞からはかなりの距離がある……当然、俺は途中で引き返してきたものと推察したのだったが。


「いえ、もう総督府へは行って来たっす。ほら、これが総督からの返事の手紙っす」


 俺達とは違い、軽装で首に白スカーフを巻いたこの金髪巻き毛の溌剌とした青年は、その場でなおも足踏みをしたまま、ケロっとした顔で総督府の紋章入り封筒を見せつけてくる。


「え! もう行って来たのか? いや、いくらなんでも早すぎだろ? しかもぜんぜん疲れてなさそうだし……」


「まあ、騎士団入る前は手紙の配達人してたっすからね。長距離走るのは慣れっこっす。たぶん、この後また団長からの返事の手紙を持ってくことになりそうですけど、まだまだぜんぜん余裕っすよ」


 その超人的身体能力を前にして驚く俺に、青年はさらに信じ難きことを平然と言い放ってくれる。


「なっ…! また総督府までとって返すのか!? おい、そんなに走らされてほんとに大丈夫かよ?」


「ええ。走るのは大好きっすからね。一日中走ってても問題ないっす。んじゃ、団長が待ってるんで失礼するっす…ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……」


 心配になってツッコミを入れるも、ますます非常識極まりない発言を残してアイタは城門を走り抜けて行ってしまう。


「マジかよ……」


 その常人離れした小柄な青年の背中を、むしろ呆れた顔で俺は見送った。


 さらに、伝令官同様の非戦闘員といえば、アルゴナウタイ号の船医というか、羊角騎士団の軍医兼料理番も務めるアスキュール・ド・ペレス先生は……。


「こら、ティヴィアス! いくらなんでも飲み過ぎじゃぞ? 一緒に飲んどる他の者達もじゃ。もう酒はやめてこのハーブティーでも飲んどけ。身体に良いヨモギのケーキも焼いたから、それを茶菓子にでもしての」


 そうしてだらしのない飲んだくれどもを叱り飛ばし、それとなく皆の健康を気遣ってくれたり、自らお菓子を作ってくれたりする気さくな老医師なんだが、その実、神聖イスカンドリア帝国・ウィトルスリア地方の古都アテーノスで名を馳せた、「死人を蘇らせた」なんていうウワサまである超絶的な名医だ。


 各地で白死病の大流行を止めた、かの伝説の旅の医師〝パラート・ケーラ・トープス〟と並び称するようなことをいう者までいる……。


 非戦闘員の軍医からしてこの逸材なのに、対する俺は誇れるようなものが何もない。


 俺のように武芸の才も特異な能力もなく、何事においても中途半端な凡人には、このエリート部隊〝白金の羊角騎士団〟に居場所などどこにもないのだ……。

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