Ⅲ 常人離れの騎士達(3)

 こんな感じで、能力も個性もずば抜けた人材ばかりの羊角騎士団において、何事も中途半端な俺は明らかに役不足である。


 それは、実際の任務においても痛感することとなる……。


 あれは、けっこう大きな海賊船とやり合った時のことだった。


「──くっ…! うおりゃっ…うわっ…!」


「なんだ? の騎士さまにしちゃあ弱っちいな」


 俺の振り下ろしたブロードソード(※レイピアよりも幅広の戦場用片手剣)がギン…!と甲高い音を船上に響かせ、敵のカットラス(※海賊の好む短いサーベル)によってやすやすと空高く弾き飛ばされる……。


 海賊どもを捕らえるため、激しいカノン砲での撃ち合いの後に敵船へ乗り込んでの白兵戦となったのだが、賊の中でも腕の立つやつと相対した俺は、予想以上の苦戦を強いられていた。


「へへへ…野郎め、覚悟しな」


「俺達と出くわしちまったことを後悔するんだな」


「今までにやられた仲間達の恨み、てめえの命で償ってもらうぜ」


 その上、さらには他の海賊三名にも囲まれて、絶対絶滅の危機に落ちいってしまう……この日は団長をはじめ団員の半分ほどを他の任務に取られており、味方の数も少なかったのだ。


「く、クソっ……」


「ゲヘヘヘ…」


「ギヒヒヒ…」


 剣を落とした無防備な俺に、鋭い刃をギラギラと輝せながら、舌舐めずりをする海賊達がジリジリと迫ってくる……俺の実力では最早、勝ち目はない。なんてこった。こんな所で俺の人生終わるのか……。


 だが、万事休すと俺がすべてを諦めたその時。


「ヒャッハーっ…!」


「セイヤぁーっ…!」


 突如、奇声とともに白い影が視界に飛び込んできたかと思いきや。


「ぶごへっ…!」


「ごはぁっ…!」


 周囲の海賊達が一瞬にして吹き飛ばされる……その白い影の繰り出す俊速のパンチとキックが、賊どもをタコ殴りにぶちのめしたのである。


「ぐ、ぐへ……」


「ぶひ……」


 ボコボコに殴り飛ばされ、あるいは蹴り飛ばされた海賊達は、全員、白眼を向いて甲板に倒れ伏している。


「おい、大丈夫か? ここはおまえじゃ役不足だ。おとなしく後に下がってな」


「ああ。あとは俺達、天下無双のオスクロイ兄弟が引き受けたぜ」


 文字通り、瞬く間に海賊四人を沈黙させたその白い影──半裸に近い格好に古代イスカンドリア風の胸甲と短い白マントを着けた戦士二人が、呆然と立ち尽くす俺に対して振り向きもせずにそう告げる。


 それは、古代イスカンドリア拳闘術という古流の拳法を操り、神聖イスカンドリア帝国で開催される帝国一武闘会でも優勝・準優勝を果たした双子の団員、オスクロイ兄弟だ。


 長い脚に銀色の脛当てと鉄靴を履いた方が足技の得意な兄のカリスト、反対に籠手ガントレットを腕に嵌めた拳打の名手が弟のポルフィリオだ。


「さあ、団長達のいねえ今日はまたとねえ見せ場だぜ! ガンガンいくぜぇ、セヤアぁっ…!」


「ああ。秒で全員叩きのめしてやるぜ! オラオラオラオラっ…!」


 二人は続け様、乱戦の中へ突っ込んで行ったかと思うとバッタバッタと次々に海賊達を瞬殺してゆく……俺は剣をなくしただけで戦意を失ったっていうのに、徒手空拳だけでのこの強さ……団長や操舵手達もだし、どんなに武芸の訓練をしたってこの人達には到底かなわねえ……。


 この一件により、俺は羊角騎士団でやっていく自信を完全に失った。

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