Ⅱ 頂点の三人
新たに生まれ変わった〝白金の羊角騎士団〟に属する騎士達の能力は尋常じゃない。
まず、そもそもの団長ドン・ハーソンからして、金髪碧眼の端正な顔立ちをした
例えば、つい最近もこんなことがあった……。
「──よし! かまわん! 俺のことは気にせず、本気でぶっ放してくれ!」
休憩時間、「ロ」の字型をしたオクサマ要塞の中庭を城壁の上から眺めていると、マスケット銃を構える四名ほどの騎士団員に対して、離れて立つドン・ハーソンが大声で叫んでいる。
「では、いきますぞ〜! 死んでも恨みっこなしですからな〜!……構えっ! 放てえっ!」
その声に、団員の傍らに立つ口髭を生やしたラテン系の副団長ドン・アウグスト・デ・イオルコが号令を発すると、パン! パン…! と一斉に四発の銃弾が団長目がけて放たれた。
「フラガラッハっ…!」
瞬間、ドン・ハーソンが腰に佩く愛刀の名を呼ぶや、その古代異教の遺跡で見つけただかいう魔法剣はひとりでに鞘走り、彼の前面で宙に浮いたまま高速回転を始める……円形の残像を描くその剣の盾は、ギン! ギン…! と火花を散らしながら、鉛の弾をすべて弾き返した。
「よし! うまくいったな……古代イスカンドリアの英雄ペルセウスが、女神アテネより授かった盾で怪物メデューサを退治したという神話にあやかり、この新たな技を〝アイギスの盾〟とでも名付けよう」
まさかと思ったがマジに剣で銃弾を防いでみせたドン・ハーソンは、回転を止めた剣の柄を掴んで天に掲げると、それを太陽にかざして眺めながら、いたく満足げに技の名を考えている。
この時代、
つまり、そんな代物をああして自由自在に操れることからして、ドン・ハーソンは文字通りに帝国最強の騎士なのである。
また、副団長のドン・アウグストも、武芸はそこそこできるくらいで俺とも大して変わりはしないが、その事務処理能力や組織の運営能力といった文官の才には妙に長けている。羊角騎士団の活動を実質的に切り盛りしているのは、団長ハーソンよりもむしろこのドン・アウグストの方だ。
なんでも団長の従兄弟だという話ではあるが、別にそのコネで副団長をやってるというわけでもないのだろう……というか、シビアに実力重視の団長ハーソンはまずそんな身内
騎士団のツートップからしてこんな感じなのだが、さらに騎士団のNo.3とも呼べる、魔術担当官のメデイアさんもまた、修道女のくせしてかなりの逸材である。
いや、魔導書による悪魔召喚魔術を使うので、純粋に武芸に秀でているというのとは少し違い、その強さは異次元のものだろう……。
我が祖国エルドラニアをはじめ、プロフェシア教を信奉する国々では、悪魔の力に頼る魔導書の使用はもちろんのこと、その所持すらも基本的には禁止されている。
だが、魔導書を専門に研究する修道士──〝魔法修士〟やメデイアさんのように、教会・各国王権から許可を得ている者であればその範疇ではない。
許可が必要なだけでなく、
それは、とある用事を言いつけられて、彼女の
「──すいませーん! アスキュール先生からハーブを分けてもらって来いって言われてきたんすけどぉ……」
ドアをノックして声をかけるが、いつまで経っても返事は返ってこない。
「……あれ? 留守かなあ? 失礼しまーす……」
やむなく俺はおそるおそるドアを開けて、部屋の中へと入ってみる。
「……ん!? なんだ? この臭い……?」
すると、室内には紫色の煙が充満し、なんだか妙に甘ったるくて気持ち悪くなるような臭いが鼻をつく。
「…フフフ……フフフフ……ついに媚薬が完成したわ……これをハーソンさまに飲ませば、ハーソンさまはわたしのことを……ああ、いけませんわ、団長! 神聖な騎士団内でそんなこと……グヘヘ…グヘヘへ……」
さらにその煙の向こう側では、仮設の炉にかけた大鍋を長い棒でかき混しながら、修道女姿のメデイアさんが不気味な笑みを
「…グヘヘヘ……ハッ!」
唖然と石のように固まったまま、ドアの傍で俺が見つめていると、彼女もようやくにして俺の存在に気づいた。
「あ、あなた!? ……見ぃ〜たぁ〜わぁ〜ねぇ〜…」
「ひっ…!」
俺に気づいたメデイアさんは顔色を一変させ、なんとも恐ろしげな形相で俺を睨みつける。
「……み、見てません! な、何も見てません!」
なにがなんだかわからなかったが、俺はブルブルと全力で首を横に振って全否定をする。
「エンプーサっ! モルモーっ!」
だが、悪鬼の如き凶悪な顔をしたメデイアさんはどこからかトカゲと蛇を取り出し、そいつを床へと放り投げる……すると、その二匹の蟲はみるみる内に巨大化し、青銅の脚とロバの脚を持つ、人の数倍はあろうかという牛角の生えた大トカゲと、下半身が蛇体となった鋭い牙を持つ鬼女へとその姿を変貌させる。
悪魔は半透明に透けているというが、こいつらはまったく透けてねえし、何か儀式をして呼び出したというわけでもねえ……召喚した悪魔ではなく、肌感覚的にも実際にそこに存在する生き物だ。
聞くところによると、どうやら彼女の使い魔らしいという話なのだが、こんなもの、本当に魔導書の魔術で造り出せるものなのか? どう見てもこの世のものとは思えないんだが……。
「シャァァァ…!」
「今見たことを誰かに喋ったら……わかってるわねえ?」
そして、二体のバケモノをけしかけながら燃えるように赤い瞳を俺に向け、ドスの利いた恐ろしい声色でガチな脅しをかけてくる。
「は、は、はい! な、何も見てないんで何も喋りません! し、失礼しまぁぁぁーす!」
いったい何が拙かったのか? まったくわけがわからないながらも俺はうんうん頷くと、本能的に命の危機を感じてその場を逃げ出した──。
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