El caballero Al Borde Del Acantilado 〜崖っぷちの騎士〜

平中なごん

Ⅰ 騎士団の改革

 聖暦1580年代末、エルドラーニャ島・サント・ミゲル……。


 ここは、世界最大の版図を誇る我が祖国、エルドラニア帝国が新天地(※新大陸)海域の玄関口に作った最初の植民都市である。


 その都市を守るため、港に築かれた堅固な石造の城壁と無数のカノン砲で武装された砦──オクサマ要塞が現在の俺の仮の住処すまいだ。


 俺の名はジョゼ・デ・ガルシア。エルドラニアのそこそこいい家柄の貴族の家に生まれた、つまりはお坊ちゃんだ。


 まあ、といっても跡継ぎじゃなくて次男坊なんで、いわゆるただ飯食いの部屋住み・・・・っていうやつなんだが、これまではそれでも困ることはなかった。


 俺達名家の次男坊や三男坊には〝白金の羊角騎士団〟に入団するという、食い扶持に困ることのない道筋が用意されていたからだ。


 白金の羊角騎士団とは、本来、プロフェシア教を異教や異端から護るために組織された護教のための宗教騎士団である。


 故に羊角騎士団の紋章も、プロフェシア教(預言教)の象徴シンボルである一つ目から放射状に降り注ぐ光──〝神の眼差し〟を、左右から羊の巻き角が挟むというデザインのものであり、その紋章の描かれた純白の陣羽織サーコートをキュイラッサー・アーマー(※胴・肩・腿だけを覆う銃弾に対応した当世風の鎧)の上に羽織る騎士団の装束は、なかなかに恰好が良くてすべての騎士の羨望の的だ。


 しかし、時の流れとともに護教の意味合いは失われ、近年、この伝統と格式ある騎士団は俺達のように家柄は良いが行き場のないお坊ちゃん達の受け皿や、王侯貴族が箔を付けるためだけの有名無実化した組織となり果てていた。


 ま、良くも悪くもそんなわけなんで、次男坊の俺としても身の振り方を心配する必要はなかったのだが……ところがである。


 我らがエルドラニア国王(※神聖イスカンドリア皇帝でもあり、その所領も含めてエルドラニアは帝国となっている)カルロマグノ一世陛下の思いつきによって、俺達を取り巻く環境は一変した。


 銀や砂糖など、新天地の植民地から輸送される財を狙う海賊達に悩まされていた国王は、白金の羊角騎士団を抜本的に再編し、この海賊討伐の任に当てようと考えたのである。


 そのため、中流騎士階級の出身だが、その武功のみでのし上がってきたドン・ハーソン・デ・テッサリオを帝国最強の騎士──〝聖騎士パラディン〟に叙すると新たな騎士団長に就任させ、このドン・ハーソンによって羊角騎士団の改革が始まった。


 即ち、家柄が良いだけの役立たずを一掃し、真に実力ある者に団員を入れ替えたのである。


 ドン・ハーソンの改革は徹底していた……天下の国王陛下が後ろ盾なので、どんなに家柄が良かろうが親が圧力をかけてこようが、使えない者は容赦なく騎士団より追放されたのだ。


 まあ、それでも多少、剣の腕に覚えのあった俺は、当初、それほど心配などはしていなかった……俺の腕を以てすれば、実力重視の騎士団でも充分やっていけると思っていたのだ。


 ……が、その考えは甘かった……いや、甘すぎたのだ……。

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