第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑬
店舗特製のフレンチトーストを
「ごちそうさまでした!」
と、両手を合わせて丁寧に食後の言葉を述べた。
その様子を眺めていたカフェのオーナーのナミが、穏やかな表情で「お口に合ったかしら?」と、彼にたずねる。
「はい、スゴく美味しかったです! こんなに美味しいフレンチトーストを食べたのは、初めてです!」
「でも、喜んでもらえて嬉しい。
と、悪戯っぽい表情で、親類の女子生徒に語りかける。
「ナ、ナミさん! そういう冗談を人前で言うのは止めてもらえないか?」
からかうような口調のオーナーに抗議の声を上げる生徒会長の表情は、心なしか少し赤く見える。
さらに、彼女は照れ隠しなのか、
「針本くんも、特製フレンチトーストを堪能してくれた様だし、そろそろ行こうか?」
と、移動をうながす。
何度も訪れているためか、慣れた様子で会計を済ませようとする上級生に対して、
(会長さんに、なにかお礼をしないと……)
と、焦りながら彼女のあとを追い、レジで会計とオーナーとの会話を終えた
「あ、あの会長さん! お礼がしたいので、このあと、少し付き合ってもらえませんか?」
と、勇気を振り絞って伝えてみる。
そんな彼の言動に、女性オーナーは、先ほどよりも三割り増しのニヤニヤした表情で
「あ、あぁ……問題ない! 大丈夫だ」
と返答して、ソワソワしだした。
自分たちの様子を興味深そうに観察していたオーナーの「じゃあね〜! ゆっくり楽しんでおいで〜」という声に見送られて、
(たしか、このあたりにあったはずなんだけど……)
小学生の頃の記憶を頼りに、
彼の意図に気付いたのか、
「会長さん、今日、
と、あらためて彼女に告げる。
「いや、そこまで気を使わなくとも……今日はキミたちに付き合ってもらったことのお礼として、私の親類の店に招待したのだから……」
そう言って、下級生の申し出をやんわりと断ろうとする
「真中さんは、会長さんを演劇部に招待する機会があるけど、まだクラブに所属していないボクには、そういうチャンスもないので……ここで、なにかお返しをさせてください」
と、食い下がる。
そんな下級生の言葉に、「キミは、見た目と違って、意外に強情だな……」と、少しあきれながらも、
「まあ、そこまで言ってもらえるなら、お言葉に甘えよう」
と、柔和な笑みを浮かべて、申し出を受け入れて、店内を見て回る。
ファンシー・ショップのテナントには、国内外の様々なキャラクターグッズが並んでいる。
(会長さんは、『密かにぬいぐるみを集めている』って
国内でも有数の人気を誇るそのキャラクターを確認した彼は、
「このクマ、癒し系でカワイイですよね?」
と、上級生に声を掛ける。すると、彼女は、
「キミもそう思うか? このキャラクターは、子どもの頃からのお気に入りなんだ」
と、嬉しそうに答えたあと、すぐに、「コホン……」と咳払いをして、かしこまった表情で、
「い、いや……いまは、それほど興味があるという訳ではないのだが……」
そっぽを見ながら、そんな風に付け足す。
その表情の変化を可愛らしい、と感じながら、
「もし良かったら、子どもの頃を思い出すためにということで、この小さいやつをプレゼントさせてくれませんか?」
彼が、10センチほどの大きさのぬいぐるみを指差すと、生徒会長は、ハッとした表情になり、
「それは、私も欲しいと思っていて……」
とつぶやくなり、すぐに、口をつぐむ。そんな彼女の様子をながめながら、
「じゃあ、お会計をしてきますね」
と言って、小さなぬいぐるみを手に取って、レジに向かう。
セール品のため、少しだけ値段が安くなっていたため、1000円の支払いでお釣りが戻ってきたクマのぬいぐるみを
「ありがとう、
「そう言ってもらえると、クマも嬉しいと思いますよ」
上級生の言葉に返答した彼が、少しずつ異性との会話に苦手意識が無くなってきているのに、自分自身で気がつくのは、もう少し後になってからのことだった。
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