第2章〜恋の中にある死角は下心〜⑨
「女子との会話が得意でない
という例から漏れていない彼の鈍感力のおかげで、彼女の言動が気にかけられる様子はなかった。
さらに、コーヒーの味と香りを楽しみながら、お互いのクラスの雰囲気や中学校時代のことを語り合っていると、あっという間に時が過ぎる。
そうして、小一時間ほどが経った頃、入り口のドアが、カランコロンと音を立て、
「やあ、二人ともお待たせしてしまってすまない」
と言って、
「会長、お疲れさまでした」
と、下級生の二人が応じると、
「いや、
と言ったあと、
「ナミさん、私は、いつものをいただいて良いかな?」
と、カウンターの向こうの店主らしい女性に声を掛ける。
「は〜い、キリマンジャロね!」
ナミと呼ばれた女性は快活に応じて、すぐにキリマンジャロのホットを準備し、ウェイターが
運ばれてきたカップに口をつけるまえに、褐色の液体の香りを堪能した彼女は、優雅な仕草でコーヒーを一口すする。
「うん……この
「さすが、会長さん、大人ですね! 私、コーヒーの味って、まだ良くわからなくて……
と言って苦笑する。さらに、
「ボクは、どっちかと言うと、甘いモノの方が好きなので……
と言うと、
「おいおい……キミたちは、コーヒーくらいで大袈裟だな……」
と、困ったような口調で苦笑いを浮かべた。
そんな上級生の困惑をよそに、
「でも、実際に、
と、
さらに、
「ボクもスゴイと思いました! あんなに静かで張り詰めた空気の中で、緊張とかはしないんですか?」
と、気になることをたずねる。
彼ら二人の熱意を感じとったのか、
「そう言ってもらえると、二人を誘った甲斐があるというものだ。キミたちに楽しんでもらえたなら、これ以上、喜ばしいことはないよ」
おおらかに、そう語ったあと、今度は一転して、
「あとは、緊張しないか、ということだが……もちろん、私も緊張しない訳じゃない」
と、少し神妙な顔つきでつぶやく。その声に反応した
「そうなんですか? ちょっと、意外です」
と応じると、生徒会長は、自らの見解を述べる。
「これは、弓道における正式な用語ではなく、いわゆる俗語というヤツなのだが……
これまでの自信に満ち溢れた様子ではなく、上級生は殊勝な面持ちで、ここまで淡々と語ったのだが……。
「私もキミたちを招待したからには、良いところを見せたいと思っていたし、『スケベ』にならなくて良かった」
その一言に感銘を受けたのか、
「さすが、会長! やっぱり、とっても格好良いです! スタイルの良い外国人女性に目を奪われている、
自分の方をチラリと見ながら語る
「ちょっと、
しかし、その話題は、上級生の心をも、大いに刺激する内容だったようで、
「ほう……それは、私にとっても興味深いことではあるな。おそらく、その男子が視線を向けていたのは、武道場の外で無遠慮にシャッターを切っていた女性のことではないかと思うのだが……」
「えぇ、そうです! だから、会長さんが来る前にも、見るからに怪しげな女性に、視線を奪われないよう、注意をしていたところなんです」
今度は、
「なるほど……
生徒会長のクギを刺すような一言に、
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