第1章〜初恋の味は少し苦くて、とびきり甘い〜⑧
「これが、リリムの正体…………」
映像に見入っていた
我が身に降りかかるかも知れない事態が想像できたのだろう、彼は保健医の
「リリムに……リリムに
「通常の医学的には、表面上とくに問題はないわ……ただし……」
「ただし、どうなるんですか? 教えてください、先生!」
懇願するように質問を重ねる生徒の様子に、
「一般的に、リリムに魅入られ、
彼女の返答をだまって聞いていた
(色んな生徒の事情に詳しそうな
そう考えた彼だが、それでも、恐怖心が収まったわけではない。
先ほどの映像に映っていた『伝説の大樹』は、自分が、つい1時間ほど前にいた場所だ。
自分は、その同じ場所でクラスメートになったばかりの
もしも、あのとき、彼女の申し出を受け入れてしまっていたら――――――。
「彼女たちから、自分の身を守るには、どうすれば良いんですか?
ふたたび、すがるようにたずねる彼に、今度は、落ち着いた表情の
「安心しろ、針本。こういう事態に備えて、協力者を募っておいた。いまから、ここに来てもらうように、連絡しよう」
「あ、ありがとうございます!」
協力者というのが、どんな人物で、リリムたちの魔の手(?)から、どれだけ自分を遠ざけてくれるのかはわからないが、なんの対抗手段も持たない彼にとって、それは、救いの女神があらわれた様に感じられた。
彼が、そんなことを考えている間に、
「あぁ、私だ。彼との話しが終わったところだ。今から、保健室に来られるか? わかった、よろしく頼む」
スマホでの通話を終えた彼女は、
「協力者は、これから、ここに来てくれるそうだ」
と言って、ニコリと微笑んだあと、
「そうだな……彼女が到着するまで、ちょっと、キミにテストをしておこうか?」
と言いながら、彼に身体を寄せてきた。
「な、なんですか、テストって……」
疑問を口にする男子生徒の様子に構うことなく、高校生からすると、大人の魅力を感じさせる整った容姿の顔を近づけた養護教諭は、彼の手の甲をスッと指でなぞりながら、
「うむ……よく見ると、綺麗な肌をしているな……そして、この
と、怪しげな笑みを浮かべ、身体を密着するような体勢を取ってくる。
「ちょ……ちょっと、
あせりながらも、彼女の行為に抗いがたいモノを感じた
「こ、困りますよ、先生……」
と言いながら、強く拒否することなく、保健医のなすがままに、身を任せようとしてしまう。
その刹那――――――。
ガラガラガラ、と大きな音を立てて保健室の扉が開かれ、
「失礼します」
と、礼儀正しく一礼をして、入室してくる女子生徒の姿が、
その突然の来訪に驚いた彼は、体勢を崩し、ただでさえ男子高校生が腰掛けると安定感に欠ける回転椅子の脚の一部が宙に浮き、
ガシャ〜ン!
と、大きな音を立てて、
「痛って〜」
かろうじて頭部を庇いながらも、リノリュームの床で、しこたま上半身を打ちつけた彼に対し、醒めた視線を向けながら、女子生徒は、
「
と、声を掛けてきた。
「あっ!
床に倒れ込んだままの
「なんだ、二人は知り合いだったのか?」
保健医の言葉に反応した
「
と、少し刺々しい口調でたずねるのだった。
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