第14話:異端の竜人【フィレス】
魔法が使えないことが判明して、しばらく落ち込んでいたが、仲間に励まされて気を取り直せたので、旅を続けていくとしよう。
「……ってか、そろそろ魔王城に1番近い街に着くな。」
「もうそんな所まで来たんですかっ!?」
「一応数日間馬車で移動してきたからな。まぁ、この前も言ったけどまだ魔王城には行かないからな。魔王城に行くのは、今から訪れる街で準備を万全にしてから。」
俺らが今から行くのは魔王からの侵略を妨害している防衛ラインの最前線にある街【アルカナ】魔王城に最も近い街に住んでるような奴は間違いなく強い。それ即ち、俺が望む強いタンクをゲットできる可能性が高い。ダンジョン攻略して貯めに貯めた金でスカウトしてやるぜぇ!
「魔導書を買いたいであるな……ぬ?ヒビキ殿、ちょっと馬車を停めてくれぬか?」
窓の外を眺めていたアレンが馬車を止めるように要求してきたので、一時停止する。
「停めるけど。……どうした?」
「…………何か来る……空か。」
……えっ?
アレンの発言に首を傾げつつも、空を見上げる。すると、澄み渡る青空に1点、星のように輝きながらかなりの勢いで落下している何かが目に入る。
「えっ?何あれ?」
「ふむ、あれは物体というよりは生物であるな。それも人型に近い。ただ人とはどこか違うように思えるな。」
「よくそんなこと分かるな。見えてんの?」
「いや、吾輩の魔法で周囲の生体情報をキャッチできるようにしてるのである。中々に魔力を使うが、便利であるぞ。」
すげぇな、さすが魔法のスペシャリスト。普通の人間には出来ないことを平然とやってのける。そこにシビれる憧れるぅ!
「……こっちに向かってきてる?」
「マジ?」
よく見ると、ミナの言う通りこっちに向かってきているように見える。そろそろ姿が見えるくらいの距離まで縮まってきたな。どれどれ………………女の子じゃねアレ?
「親方ァ!空から女の子がっ!」
「吾輩に任せたまえ。【浮遊(フロー)】」
アレンの風魔法により、落下速度が軽減したところで、完全に地面に落ちる前に俺がキャッチ!美味しいとこ貰ったァ!!
「よいしょっと。……ふぅ、大丈夫か?って反応ねぇな。」
落ちてきた少女にそう問いかけるが、どうやら気絶してる様子。一体何があったのやら。……にしてもこの子、なんか鱗とか角あるんだけど。気になったので軽く小突いてみるとかなりの硬さを有しているのがわかった。……おっとぉ?硬いのか……ほうほう。
「……大丈夫なのその子?」
ミナが怪訝な目で俺が抱えている少女見つめている。よく見ると体に酷い焦げ跡がある。顔色も悪いし、これは早急に治した方が良いだろう。
「早く回復させた方がいいのは間違いない。ユーリくんどうにか出来る?」
「分かりました!【付与・再生】」
ユーリくんがかけた魔法により、徐々に体が元の状態に戻り始める。……これで安心だな。よしよし。
「ふぅ、何とかなったっぽいな。顔色も良くなったし。……ところでお前らに1つ提案なんだけどさ。」
「ヒビキさん、もしかして……」
うんうん、俺と長く旅をしてるユーリくんはどうやら察してくれたようだな。俺はニヤリと笑いながら口を開いた。
「コイツ仲間にしたいんだけど、良いか?」
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私は竜の娘としてこの世に生をさずかった。竜といっても常日頃から本来の四足歩行の姿な訳ではなく、日常では二足歩行で人間のような見た目で暮らしている。
私には【フィレス】という名を与えられ、辛いことも悲しいこともあったが、同胞と遊び、学び、高めあって生きてきた。
とても幸せな毎日だったが、ある日のこと。私はふと疑問に思ったことを物知りな祖父にぶつけてみた。
「……おじい様、なぜ私たちは他の種族を襲う必要があるのですか?」
私たちの種族は人間や獣人など色んな種族を手当り次第に攻撃している。私はまだ人間を襲ったりはしていないが、将来的にやらなければならないと父に言われたので、それならば襲わねばならない理由を知ろうと思ったのである。
すると祖父は困ったような顔をしながら、優しい声で返答する。
「魔王様のご意思だからじゃ。」
「魔王様?」
「そう、儂ら……所謂、魔物の王。あのお方が他の生物を殺すという意志を示されたら儂らはそれに従う。それが儂らの役割なんじゃよ。」
「なんで私たちの種族は魔王様に従ってるんですか?」
「儂らが魔物であるから。理由はそれ以上でも以下でもない。王に従うのは当然というもの。そこに疑問なんて感じたことは無い。知りたいことはこれで終わりか?ならもう寝なさい。」
「……はい。」
私はさらに増えた疑問を抱えながら、部屋から出ていった。
……正直よく分からない。魔物だからって理由で従わなければならない理由も何故魔王様が他の生物を殺そうとしているのかも。
私は曖昧な理由じゃなくて理屈が知りたかった。それはそういうものという理解で終わらせたくはなかった。ただ、村の大人に聞いても「余計なことは考えるな」の一点張りで埒が明かない。
より深く知るために村にあった書物に目を通してみたが、関係がありそう情報があまりなく、深く知ることは出来なかった。
疑問を抱えたまま、すくすくと成長していき、とうとうその日がやってきた。
父に呼び出され、人間の街を滅ぼしてくるように命じられた。
「……嫌です。」
私は拒否した。何故そんなことをしなければならないのか。私は他の生物を自らの手で殺めなければならないという罪を背負いたくはなかったのだ。
「……ならば、お前をこの村から追い出す。」
父は冷たい眼差しをこちらに向け、そう言い放った。
「なっ!?」
なぜ?そこまでして魔王の命令に従う理由とは何だ?実の娘を追い出すほどのことなのか?
「……分かったら、早く人間を殺しにいけ。……それで全てが丸く収まるのだ。」
父が一体何を隠しているのか。何一つ私には分からない。……それでも私は……
「……それでも……私はその命を受けたくはありません……」
「………………そうか。……ならば……ここにお前の居場所はない。ここから出ていくのだ。」
「……わかりました……」
この瞬間、私は村から追放された。でも私は自分の信念に従ったのだ。後悔はしていない。荷物をまとめて、村から出ていこうとしたその時のこと。
「……すまないっ。」
ふと背後から父の声がし、思わず振り返ると……
竜の形態に変化した父が口に炎を溜め、今にも私を灼き尽くさんとする光景が目に入った。
「……えっ?」
私は呆然とし、思わず硬直してしまう。瞬時に意識を戻し、翼を広げ、空へ逃げたが体の半分を炎が覆い尽くす。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっ!!!!
自慢の鱗は熱で溶けかけ、皮膚は焼きただれて赤黒く変色する。凄まじい痛みと熱が襲ってきて、今にも落ちそうになるが、死にたくないという生存本能が翼を動かし、空高く私の体を持ち上げた。
急いでここから離れなくてはならない。その一心で懸命に翼を動かす。
しばらく飛び続け、遠く離れた所までやってきた。ここまで来れば大丈夫だろう。
安心したからか、瞼が急に重くなり、意識が朦朧とし始める。……こんなところで意識を失ったら……まず……ぃ……
意識を保とうとしたが、抵抗虚しく、そのまま私は空中で意識を失った。
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