第13話:互いを知れば百戦危うからず
良い感じのセリフを放ってくれたが、縄でぐるぐる巻きにされた状態で言われたら締まらんなぁ。とはいえこれで契約成立だ。存分に利用させてもらうとしよう
「そろそろ縄をほどいてくれぬか?もう仲間になったのだから逃げも隠れもせぬぞ?」
その言い方されるとさっきの言葉がほどいてもらうために並べた御託に聞こえるんだよなぁ。疑り深いってのも難儀なもんだわ。とりあえず縄をほどかないと嫌な気分にさせる可能性があるからほどくか。
手に持ったナイフでスパスパと縄を切って、アレンにかけた拘束を解く。
どうやら俺の考えは杞憂だったようで、アレンは逃げるような素振りを見せなかった。
仲間になることを了承してくれたようだ。確認を終えた後、別の部屋にいるユーリくんとミナを叩き起こして、近場の酒場で朝食を食べながら自己紹介を行っていくことにする。
アレンはまだ俺の仲間と会うのは初めてだからしっかりお互いの個人情報を交換しとかないとな。
個人的にアレンがミナのことをどう思うかが気がかりだったが、どうやらアレンは悪魔の生まれ変わりとかは信じていないようだったので特に忌避感もなく話せるようだ。ひとまず安心だな。
自己紹介を終えて、朝食も食べきったので仲間ができたとき恒例の親交を深める旅でもしましょうかね。ただ今回は適当に街を渡ってた前回と違って目的地ちゃんと設定してるぜ。なんせ、パーティーが良い感じに揃ったからな。魔王がいる根城へ向かって進んでいくとしよう。
まぁ、個人的にはタンクが欲しかったところではあるが、このパーティーでも十分攻略可能でしょ!思ったよりアレンが弱かったらさすがにタンクを見つける旅が始まるけど、周囲の評価的にめっちゃ強いらしいし、いけるいける!それに旅の道中でタンク見つかるかもしれんしな。
善は急げといいますし、早速旅に出ますかね!レッツゴー!
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縄を解かれた後、ヒビキ殿は他の仲間を起こしに行ったようだ。ヒビキ殿の仲間……いったいどのような人物なのだろうか。優秀と言っていたから何かに秀でいているのは間違いなさそうだ。
そうして待っていると部屋の扉が開き、ヒビキ殿とヒビキ殿の仲間と思われる人物が二人ほど現れた。気弱そうな少年と可愛らしい獣人の少女。……自分の想像とはかけ離れた見た目だったので驚いたが、見た目だけで評価するのはナンセンスだ。ちゃんと詳細まで知る必要があるだろう。
ぐぎゅるるぅ……
そう彼らを観察していると吾輩の腹の虫が鳴った。……そういえば何も食べていなかったであるな。そう自覚すると急速に空腹感が押し寄せてくる。
「あー、じゃあお腹減ってるっぽいし、朝ご飯食べに行くか。そこで自己紹介もまとめてやれば効率いいだろ。みんなもそれでいいよな?」
首を縦に振って肯定の意を示す。そのまま酒場へと向かい、軽い朝食を摂る。何日かぶりの食事なのでついがっついてしまう。ある程度食べて空腹感が消えた辺りでヒビキ殿が口を開いた。
「ほいじゃ、そろそろ自己紹介していくか。
俺の名前は【ヒビキ】このパーティーのリーダーで、魔王を倒すことを目標に掲げている。好きなことは睡眠。はい次ぃー!」
「えっと、僕の名前は【ユーリ】です!役職はサポーターで、夢は世界一の冒険者になることです!……あっ、好きなことは魔法の練習です!じゃあ次、ミナさん!」
ふむ、サポーターか。支援魔法は吾輩の専門外であるから、あとで教授いただくとしよう。もしかしたら吾輩の魔法にも応用が効くかもしれないからな。
「……私の名前は【ミナ】このパーティーのアタッカー。夢は特になし。……私はお前が仲間になることはあんまり納得してないから。」
……なぜかよく分からんが、ミナ殿からは受け入れられていないようだな。まぁ、新参であるからしょうがないのだろうか。
「あー、アレンとミナちょっとこっち来て。ユーリくんはここでテーブル死守しといて」
「わかりました!」
ヒビキ殿はそう言うと他の人からは見えない場所へと我輩たちを誘導する。いったい何なのだろうか。そう疑問に思っているとヒビキ殿が口を開いた。
「ミナ、帽子取ってみて」
「……でも」
「大丈夫。最悪ダメそうだったらなんとかするから」
「……分かった。」
そう言うとミナ殿は被っている帽子をゆっくりと外した。……あぁ、そういうことか。帽子を取って現れたのは綺麗な黒髪。……黒髪に黒目。それは悪魔の生まれ変わりといわれ不吉の象徴であると扱われている。ミナ殿としてはあまり他人には見せたくないものだろう。
「綺麗であるな。」
「え?」
吾輩の率直な感想にミナ殿は目を見開いた。その反応からして今までまともな扱いはされてこなかったのだろうな。……気に食わん。
「……不快に思わないの?」
「どこに不快に思う要素があるのだ。世間では悪魔の生まれ変わりだの何だの言われているが、あんなのはなんの根拠もないくだらない考えである。見た目で排除しようと考えるほど吾輩は愚かではない。ミナ殿はミナ殿である。」
「……ありがとう」
「ほらっ、言ったろ?大丈夫だって。……それじゃ、お互いのこともわかったことだし、戻るとしようか。これ以上ユーリくんを待たせるのもあれだし。」
「それもそうであるな。」
そうしてテーブルへと戻り、自己紹介を再開する。
「ほいじゃ、最後にアレン。お前のことを話せ。」
「了解した。
吾輩の名前は【アレン】魔法をこよなく愛し、探究している魔導士だ。夢は自分の実験室を持つこと。元王族の身だが、仲間となったからには対等に扱って欲しい。」
「もちろん。」「了解です!」「わかった」
そうして自己紹介が終わり、朝食も摂り終わった頃、ヒビキ殿が吾輩たちに提案をしてきた。
「さてさて、お互いのことをよく知れたことだし、毎度恒例のアレをしようか。」
「アレ?」
アレとは何なのだろうか?吾輩以外は分かってそうな感を出してるし、恒例と言っているからこのパーティーで定期的にやっていることなのだろう。
「よぉーし!今から旅に出るぞ!!」
「……今からであるかっ!?」
動揺している内にヒビキ殿とミナ殿に担がれてそのまま馬車へと運ばれる。……なぜ馬車が既に用意してあるのだ。準備が良すぎであろう。そうして唐突に旅が始まった。
しばらく馬車で移動していた最中、何かを思い出したかのような顔をしたヒビキ殿が衝撃的なことを言い放った。
「……あっ、皆に言い忘れてたけど行き先は魔王城な。」
「「「…………は?」」」
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