第12話:研究者魂
しばらく経って、ユーリ達が帰ってきた。ミナは王子のことをよく思っていないようだ。まぁ、新しい仲間って慣れないもんな。一方、ユーリくんは歓迎してるっぽいな。やっぱりパーティーから追放されたから仲間というものに飢えてんのかね?
……まぁ、とはいえ仲間になるかどうかはまだ確定してないんだが。仲間にならなかったとしても金補填してやったんだから魔王を倒すのには協力してもらうとしよう。決して善意で助けたわけじゃないからな。
さっき話した感じ、悪い奴ではなさそうだった。ただ、俺にメリットがない点を疑問視したところを見ると馬鹿ではない。……自分の体のこととかに関しては馬鹿になるっぽいが。さっき分かったことはそんな感じだな。
……さてさて、王子が寝ている間の時間を無駄にするのはもったいない。ここは情報収集といこう。異世界に来てから1年間が経過してるが、あんまり異世界について詳しくないからな。書物とか通行人から情報を得るとしよう。情報はどの時代、どの世界でも最強の武器となり得るからな。
ってなわけでユーリ達が買ってきてくれたご飯を食べて、雑談した後、彼らを別の部屋に寝かせる。そして俺は夜の街で1人、酒場やギルドに寄り、情報収集を始める。
……はぁ、俺も寝たい。ふかふかのベッドで暖まりながら寝たい。
日本が恋しいなぁ……なんで俺がこんな目に。異世界は異世界での良さもあるけど、インターネットもなけりゃ、ゲームもないし、ホント暇なんだよな。
魔法が使えれば遊べたんだろうが、あの天使が何もくれなかったせいで、肉体面は日本の頃と大して変わらんし。
あー、ダメだダメだ。1人になると変な思考になってしまう。そんなこと考えてる暇があるなら魔王を潰す策の1つや2つ考えろっての。心の中で自分を叱責し、気持ちを切り替える。
その後、宿屋に俺が帰ってきたのは朝日が昇る頃のことだった。
……マジで眠い。信じられないくらい眠い。でも、やることがあるから寝れねぇ……散々王子のこと言ってたのに、俺も人のこと言えねぇな。でも、おかげで色んな情報が集まったからヨシ!
顔を洗って眠気を軽減させ、部屋に向かうと、部屋の外へ出ようとしている王子を目撃した。……まさか逃げようとしている?
俺は全速力で王子を捕らえ、部屋へと引き戻す。
「な、何をするんだっ!離してくれっ!!」
王子が文句を言っているが知ったこっちゃない。お前のために色々してやってんだから見返り貰うまで逃がさねぇからな!覚悟しろよコノヤロウ!
ここで仲間が逃げようとした時のために用意していた縄が火を噴くぜ。必死に抵抗する王子をぐるぐる巻きにして、ベッドに放り投げる。
よーし、これで逃げられることないし、さっそく交渉のお時間といこうか。
お互い納得するまで話し合おうね!
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「……ん……ぅっ……ふわぁァ……」
……こんなに睡眠を取ったのはいつぶりだろうか。体の気だるさが一気に取れたような充足感。やはり睡眠というものは必要であるな。寝不足だと思考がまともに働かん。それを改めて気づかせてくれたヒビキ殿には誠に感謝であるな。
「……出るか。」
これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。金を補填して貰えると言っていたが、さすがにそれは申し訳ない。このまま宿代を払って出ていくとしよう。そう思って、吾輩がベッドから起き上がり、そのまま部屋の外に出ようとすると……
「あん?」
部屋の外でばったりとヒビキ殿と出会ってしまう。吾輩を視認した彼は全速力でこちらに向かって走り、吾輩の服を掴むと、部屋へと吾輩を引きずりこんだ。
「な、何をするんだっ!離してくれっ!!」
「離すかこのバカが!逃げようとしてただろ!そんなの許しまへん!」
そう言って、彼はどこからともなく縄を取り出すと吾輩の体を縛り上げた。……くっ、魔法を放てば抜けられるが、それだと建物や周辺の民に危害が及ぶ。ここは大人しく拘束されるしかないか。
「よーし。これでようやく落ち着いて話せる場が整ったな。安心安心。」
……吾輩は微塵も落ち着けないのだが。そもそもこんな状況で落ち着けるのは、縛られること自体に快感を覚えるようなやつだけだと思うのだ。
「……どうして吾輩をそこまで構うのだ?ただの善意とは思えない。」
吾輩は彼と話してて感じた疑問をぶつけてみた。すると彼は衝撃的なことを言い放った。
「あぁ、善意じゃない。正直そんな理由で助ける馬鹿なんてこの世にはいない。……理由はシンプル、お前の力が必要だから。」
「吾輩の力が?」
「そう、第五王子【アレン】。その卓越した魔法技術は他国にまで響き渡っているという魔法の天才。そんなお前の力を俺は欲している。要するに俺の仲間になって欲しい。」
「……なるほど、吾輩を仲間に。というか吾輩の素性は知っていたのであるな。」
「もちろん。仲間したいヤツのことはとことん調べあげる。情報ってのは最強の武器なんだぜ。」
「……吾輩に固執する理由はわかった。でもそれだと、吾輩が仲間になるメリットが薄いのではないか?」
パーティーに入るよりも、1人で依頼をこなしてる方が効率が良いし、費用もかからないからお得に思える。
「フッフッフッ……そこら辺はちゃんと考えてるさ。俺がなんの考えもなく、お前を勧誘してたと思ってるのか?」
「何だと?」
「お前が目標に掲げている額、30万ルブル。それを最速で稼ぐ手段の提供だ。どうだ?」
そんな方法があるのか?怪しさ全開だが。まぁ、聞くだけ聞くとしよう。
「……具体的にその手段とはなんだ?」
「【魔王討伐】だ。」
「なっ!?」
【魔王】……この世界の住民なら誰もが知っている魔物を率いる王。各地を侵略し、世界を支配しようと企んでいる人類の敵。そんな化け物を倒すだと?
「知っての通り魔王を倒したものには国から報酬を与えられる。30万ルブルなんかよりももっと多くの金が手に入る。冒険者で依頼をこなすよりも早く終わるぜ。」
「勝てる保証は無いではないか。」
「お前の言う通り、確実に勝てる保証はない。
……でも、お前がいれば勝率はグンと跳ね上がる。お前の力が必要なんだ。だから頼む。協力してくれ。」
そう言い、彼は吾輩の前で頭を下げて懇願した。
……まだ出会ってから1日しか経っていないというのに、仲間にならないかと勧誘され、魔王討伐に協力してくれと懇願される。
……なんと……なんと面白いことか。
いったい何が彼をそこまで奮い立たせるのか?
彼の思考回路はどうなっているのか?
……研究対象としてここまで面白いものはなかなかにない。
それに吾輩の魔法が魔王に通用するか、気になっていたところでもある。
ならば吾輩の答えは決まっている。
「……分かった。その頼み引き受けようではないか!この【アレン】の力を存分に役立たせてみろ!」
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