第11話:自分の体は大切に


倒れている王子を発見した訳だが、どうしようかな。とりあえず恩を売るのが先決だ。宿屋に運ぼう。倒れた原因は不明、熱中症か睡眠不足か。栄養失調も可能性としては考えられる。


ユーリくんとミナに水と食料の買い出しを頼み、俺は宿屋に王子を運んでベッドに寝かせる。

顔を見た感じ隈が酷いな。ってことは倒れたのは睡眠不足か。

こりゃ、しばらくしないと起きないだろうな。


なら王子の攻略法でも考えるか。恩を売って、王子の過去の話とかを聞き出し、求めているものを俺が提供出来れば仲間にできる可能性が上がるだろう。



そんな感じで王子の攻略法を考えていると

突然、王子の体がビクビクッと跳ねだした。

いきなり何が起きたのかと、様子を見ているとむくりと王子が起き上がった。


「……ぅ……だいたい……2時間ほど睡眠はとれたか……これで丸一日は動ける……」


起きて早々ブツブツと何かを言っている。

するとそのままベッドから出ようとしているので急いで制止する。

マジかこいつ、倒れるくらい危険な状態だったっていうのにまだ動こうとしてやがる。


「……貴公は……?」


やっと俺に意識が向いたか。

とりあえず自己紹介と倒れていた王子を宿屋に運んだことを説明した。


「……申し訳ない……他者に迷惑はかけぬよう……心がけたつもりであったが……」


いや、謝罪する前にとりあえず寝ろよ。今の満身創痍の状態で話されても困るんだわ。


「気遣いはありがたいが……でも、今……頑張らねば……研究が遅れるのだ……だから金を稼がねば……」


ほう、金?どのくらいいるんだろ。

……えっと日本円換算で……3000万円……?

まじかっ、そのレベルの金何に使うんだよ。

……ほうほう、実験室を造るのが目的と、それで金がいると。

でも王族だから金持ってんじゃないの?貯金とかたんまり貯めてそうなイメージあるけどな。

……研究費用に突っ込んだ?

……あぁ、こいつバカなのか。


王子のバカさ加減に頭を抱える。

多分研究とか言ってるからその分野においては天才の領域なんだろうが、私生活とかそこら辺がダメダメなタイプだ。


「寝ている間に稼げる予定だった分は補填してやるからさっさと寝ろ。」と伝えて眠るように誘導する。


「いや、それだと……貴公にメリットが」


「寝ろ!いいから寝ろ!自分に体を大事にしろ!」


体を壊して死んだりなんかしたら仲間に加える計画も失敗に終わってしまう。それだけは阻止する。来たくもない街に来た意味が無くなるなんてことはあってはならないのだ。


俺の必死の説得でようやく観念したのか、寝始めた。そして直ぐに寝息が聞こえ始める。ほれ見たことか、やっぱり体は限界迎えてたんじゃねぇか。


今度こそ起きるまで時間かかるだろうし、それまで気長に待つとしますかね。



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「……ぅ……だいたい……2時間ほど睡眠はとれたか……これで丸一日は動ける……」


吾輩は寝ている時間を最小限にしたいが故に、寝てから2時間経つと体に電気が走るように設定した。だから気絶しても短時間で起きれるというわけだ。


それにしてもここは……宿屋か。誰かがここに運んでくれたのであろうか、その者には感謝せねばならんな。とりあえず今は一分一秒が惜しい。運んでもらった者には悪いが早く依頼を受けねば。


そう思い、体を起こしてベッドから出ようとすると、不意に声をかけられた。


「待て待て待てっ!さっきまで倒れてやつがすぐに動こうとするんじゃない!!」


寝起きで気づかなかったが、ベッドのそばに皮の服を身に着けた男が居り、こちらを見ていた。


「……貴公は……?」


「俺の名前はヒビキ。しがない冒険者だ。道端で倒れてるお前をここまで運んできてやった。説明はこれで十分か?」


なるほど……彼がここまで運んできてくれたのか。自分の時間も惜しまず助けてくれるとは親切なのだな。


「……申し訳ない……他者に迷惑はかけぬよう……心がけたつもりであったが……」


吾輩のミスであるな。次は宿屋や路地裏などの見つからない場所で倒れるのが良いだろう。今後も似たようなことが起こるであろうからな。


「うんうん、謝罪は別にいいんだわ。とりあえず睡眠不足っぽいし、寝たら?」


「気遣いはありがたいが……でも、今……頑張らねば……研究が遅れるのだ……だから金を稼がねば……」


あぁ、まずい。脳が上手く回らない。確かに多少睡眠は取った方がいいのだろうが、それによる時間のロスは計り知れない。時間は有限であるから大事に使わなければならないのだ。


思考を整理していると、彼から疑問の言葉が飛び出す。


「金いるの?いくら?」


「30万ルブル」


※1ルブル=100円


「何に使うんだそんな大金。」


「吾輩の研究室を造るのだ……そのための資金だ……」


「貯金ないの?」


「貯金は魔法の研究費用に全部注いだ。……おかげでほぼほぼ金がない状態だったのだ……自分のことながら滑稽で笑えてしまう……」


「……ぁあ……なるほどぉ……そっかぁ……う〜ん、じゃあお前が今から寝た時間の間に稼げる予定だった分は俺が補填してやるから、今は寝ろ。」


彼の発言に吾輩は目を丸くした。明らかに彼にメリットがないからである。助けてくれた恩人を疑うのは心苦しいが、流石に怪しい。


「いや、それだと……貴公にメリットが」


「寝ろ!いいから寝ろ!自分に体を大事にしろ!」



彼は凄い剣幕で怒り始めた。本気で吾輩の体を心配しているのだろうか。……確かに吾輩も限界を感じていた。ここは好意に甘えて眠るとしよう。



後で恩返し……せねばな


そんなことを思いながら吾輩は再び目を閉じた。



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