第10話:うつけ者の第五王子【アレン】
とある砂漠の真ん中に位置する、砂塵吹き荒れる街に俺たちは訪れていた。
燦々と降り注ぐ陽の光か体が水分を奪っていき、皮膚が乾燥していく。
本音を言えば俺はこんな街に来たくはなかった。でもどうしても来なければならない事情ができたのだから仕方ないだろう。
「ヒビキさんっ、ホントに居るんですかっ?」
ユーリくんが疑問符を飛ばす。
「多分この街のどっかには居る。けど、さすがに暑くて探すのは無理だな。一旦休憩するか。……大丈夫か?ミナ。」
「……あづいっ」
俺たちは一体何を探しに来ているか。それは遡ること数日前のこと。
その日、俺はいつも通り新たな仲間を求めて1人街をぶらついていたのだ。
情報求めて酒場のマスターから色々話を聞いていたら、気になる情報が飛び出した。
「王子様が追放?」
「あぁ、王都ではこの話題で持ちきりだ。うつけ者の第五王子が王に勘当されて、城から追い出されたってな。」
「……へぇ。なるほどな。……ちなみにその第五王子の場所とかは分かったりするか?あと容姿も。」
「なんでそんなことが知りたいんだ?」
「色々と気になっただけだ。情報持ってるなら……これを。」
マスターの前にいくつかの硬貨をチラつかせる。
「この倍くれたら話してやるよ。」
「よし、交渉成立♪」
そういって更に倍の硬貨をマスターに渡したあと、マスターは話し始めた。
「確か砂漠の街【アルバーナ】で目撃情報があるって聞いたな。今もそこにいるかどうかは知らねぇけど。見た目は俺も見たことあるから覚えてるぜ。金髪のイケメンだった。それと頬に傷跡がある。」
「……なるほど、参考になった。ありがとな!」
「礼はいらねぇよ、金出せばいくらでも話すさ。」
マスターに感謝を述べた後、俺は酒場を去った。
……第五王子ねぇ。良いポジションのキャラじゃないか!きっと凄い才能の隠しているチート能力とかを持っているはずだ。……仲間にしたい!きっとそいつも主人公格なはずだ。
とはいえ元王族、一筋縄ではいかないだろうが……とりあえずやるだけやってみるとするか。
そんなこんなでユーリとミナと話し合って、この街【バーラット】にいる王子様を探しに来たのが、ここに至るまでの経緯というわけだ。にしてもマジで暑いっ、ホントに暑い!
水飲んでないとすぐに干からびてしまう。
こんな街来るんじゃなかったと後悔している。……こうなったら何がなんでも王子様を見つけて仲間に引き入れてやる!絶対に!
まぁ、そんな都合よく見つかるわけがないんだが……ん?
「…………」
俺たちが休憩しようと宿屋を探していると、道端に倒れている男がいた。……可哀想に、彼も暑さで倒れてしまったのか。助ける義理はないから無視……いや、せっかくだし金品を強奪していくか。
そう思い近づいて、身ぐるみを剥ごうとするとローブで隠れていた、男の顔が目に入った。
……金髪でイケメン、頬に傷跡。
俺が探している人物、第五王子【アレン】のご尊顔と特徴が完全に一致した。
……俺の能力って実は主人公補正なんじゃねぇかな。
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「アレン、お前は国王である私の子として……民を導く者として相応しくない行いを続けてきた。」
吾輩の父であり、この国を統べる王である【カーサス・ウィルバーン】国王が突然吾輩を呼び出し、説教のようなものを始めた。
正直、何が起こるのかは予想しているのでさっさとして欲しいところだ。
「全ては魔法の進歩のため。前もそう言いましたよね?」
「私語を慎め。お前の研究まがいの行動で生じた被害の数々。今までどれだけ私がお前尻拭いをしてきたと思っている。」
「……」
「だんまりか。お前の兄や弟は誠実で優秀だというのに……もうお前には愛想が尽きた。【アレン・ウィルバーン】。今日限りでお前からウィルバーンの姓と王族としての権限を取り上げる。すぐに荷物をまとめて城から出て行くように。」
「分かりました。今までお世話になりました。」
そう言い、吾輩は王室から去る。
極めて妥当な結果だろう。吾輩の研究は他者からは理解されがたく、幾度となく国に迷惑をかけたからな。
だから吾輩を追放するという父の判断は極めて理性的であるといえる。
こっちとしても王族であるという責任から逃れることが出来るので願ったり叶ったりであるが。
幼い頃、魔法に魅せられた。こんなに美しいものがあるのかと胸踊った。
だからこそ、魔法を解き明かしたいと思った。
魔法の研究をし、魔力を効率的に運用する方法を考え、新しい魔法を発明しては試した。
所構わず試し撃ちしたせいで、城に穴が空いたりしたのはさすがに反省している。
ただ、研究というのは辞められないもので、何度も何度も繰り返した結果が、この追放という形で現れているのだろう。
「……さて、これからどこへ行くとしようか。」
王都からは離れた場所の方がいいだろう。少なくとも、これ以上迷惑をかけたら軍を派遣されて抹殺されてしまいそうだ。
魔法の研究に最適な場所。ならあまり人が住んでいない街がいいだろう。
【アルバーナ】……ここより南の砂漠のど真ん中に存在する街……うむ、ここなら建物や人が少ない。拠点にするのに最適だろう。
目的地を決めた吾輩は早速、荷物をまとめて城から飛び出た。文字通り窓から空を飛んで出たのだ。
風と炎を創り出し、自身の周辺に上昇気流を生みだす。
そして重力魔法で体の重さを減少させて背中にグライダーを付ければ、空を飛べるって訳だ。
移動方向や速度は風魔法で調節が可能。
非常に便利だが、いくつもの魔法を同時に使い、なおかつ持続させなければならないから、吾輩のように魔力量が高く、魔力効率を高めた者でなければ運用が厳しいのが難点だ。
およそ1時間ほどで、アルバーナへと到着した。思ったよりもかかってしまった。
次からはもっと風魔法の威力を調節するべきだな。
……にしてもこの辺は暑い、ここは氷魔法で周囲の温度を下げておくとしよう。
気温はこれで20℃くらいになったな。
さて、問題点は山積みだ。
吾輩は父から貰った小遣いを研究に当てていた故に貯金がない。
研究を進めるためにも金を稼ぐ必要がある。吾輩ならどの職でもそれなりの成果は出せるが、効率を考えるとやはり冒険者が良いだろう。
魔物に魔法を試すことができるし、その上で金が稼げる。吾輩にピッタリな職だ。
そうして吾輩はギルドに行ったのだが、他の冒険者にジロジロと見られてしまう。吾輩を知っている者や単に見覚えのないヤツという認識から目立ってしまっているのだろう。
目立つのはあまり好きじゃない。そそくさと依頼を受け取り、ギルドから出ていく。
今度からはローブを使って顔を隠すことにしよう。
依頼は簡単に終わった。吾輩の魔法を耐えられる魔物がここら辺には居ないのである。いくら撃ち込んでも死なない魔物が現れて欲しいのだが、そう上手くいかないが現実である。
そうして金を稼いでいったが、目標金額まではまだまだ足りない。吾輩の実験室を作るまでの道のりはまだ遠そうだ。
金を集めるために寝ずに依頼をこなしていたのが、どうやら体力の限界が訪れたらしい。
道を歩いていると、急に視界がぐらついた。恐らく、睡眠不足とあまり食事を摂っていなかったせいで栄養失調に陥ったのだろう。
自分の体は大事に、するべきで……あるな。
そう分析した吾輩は道端で意識を失ったのであった。
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