第6話:悪魔の獣人【ミナ】


はいはい、ユーリくんを仲間に引き込んだぜ!しかもクソ強くなったし。こりゃもう安泰ですわぁ。だが、油断は禁物だ。ハチャメチャに強い敵が出てくるかもしれない。それに対処出来てこそだ。

要するに何が言いたいのかというとだな。新たな仲間がいる!個人的にはタンクかアタッカーのどっちかだな。でもどうやって引き入れるか。


う〜む……あっ、そうだ。良いこと思いついたぜ!クックックッ……やはり俺は天才のようだなぁ。ならプランを変えよう。仲間を探すために色々な街を巡る予定だったが、もっと効率的な方法が見つかったからな。

早速ユーリくんを連れて、出かける準備を始める。

おや?ユーリくんが一体どこに行くのか気になってる様子だ。仲間だしちゃんと言っとかないとな。信用を失ったらおしまいだ。


「今から王都に行くぞ!楽しい楽しいお買いものの時間だ!」


はい……というわけで約4日間移動して王都に到着です……ヤッバイ……吐きそう。……うぅ……乗り物酔いしやすい体質はいつまで経っても治らんなぁ。どうにかならないもんかねぇ。


……ふぅ……よし。落ち着いたし、早速お買いものしに行きますかね。とはいえ、ちょっと「子供には見せられないよ!」なことするからユーリくんとは別行動をしよう。少しお金あげるから適当にぶらついてなさい。


さて、ユーリくんをどっかにやったし、早速向かうとするか。でもその前に、ちゃんとした服を用意しないとな。俺が着てる布の服じゃ、周りのヤツらに舐められかねん。


ってなわけでそこら辺の服屋で、そこそこ高貴な感じがする服を購入した。派手な装飾が施されていて、結構金かかったけど。 まぁ、必要経費だ。それに今は金結構あるからな。特に苦でもない。

さぁ、準備は整った。今から行く場所の事前情報は既に掴んでいる。抜かりは無い。じゃあ行くとするか。


「【奴隷商店】に」


意味深に呟いてみたけど、大してかっこよくなかったな。まぁ、要するに仲間を奴隷から調達しようって話だ。よくあるだろ?奴隷から強いヤツ発掘する展開。だからこそ、優秀な奴隷がいそうな王都へとやって来たわけだ。


早速お店に入るか。ってか隠された場所にあるのかと思ってたけど、普通に目立つ場所にあったわ。しかも結構大きい。まぁ、何人も置いてるわけだから規模をデカくしないといけないのは考えてみれば当然である。


「いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」


店に入ると、見るからに怪しい小太りのおっさんが出てきた。奴隷商としてほぼ満点の見た目してんなと素直に感心してしまう。


奴隷商に奴隷を買いたい旨を伝えると、早速奥へと案内してくれた。見た感じ色んな種族がいるな。人間は当然いるし、エルフだったり獣人もいる。とはいえ男性率が高いが。やはり性的な目的で買う連中が多いからだろうか。


他に気付いた点としては価格が高いやつ程、閉じ込められている部屋の質がいい。やはり売れそうなのは丁寧に扱うんだろうな。安いやつはThe牢屋みたいな部屋に入れられてるけど。


個人的には最低レベルの部屋に閉じ込められてる子を狙いたいんだよな。だってそういう子の方が優しくしたら懐いてくれそうじゃん?あと、酷い扱い方をされてる子の方が成長したら強くなりそう。そういう展開見たことあるし。


…………うーん、しばらく眺めたけど目ぼしいのはあんまおらんな。個人的には女の子がいいんだよな。強さとかじゃなくて単に俺の趣味だけど。って、なんだこの部屋。薄暗っ。中に入ってるやつよく見えねぇんだけど。


「その中にいるのはおすすめしませんよ。【悪魔の生まれ変わり】ですから」


……悪魔の生まれ変わり?……へぇ。めっちゃ面白い情報だなそれ。気になるので何でそう呼ばれているのかを聞いてみることにした。……なんか今、そんなことも知らないのか?みたいな顔されたけど気の所為だよな?


……ほうほう、要するにはるか昔、世界を滅ぼしかけた悪魔が黒髪黒目だったから、黒髪黒目は不吉の象徴、または悪魔の生まれ変わりとされてんのか。……へぇ〜。ってことはこの中にいるのは黒髪黒目の子ってことなんだな。ってか黒髪黒目でアウトって日本人やべぇじゃん!良かったぁ、俺、茶髪で。両親に感謝だな。


……にしても、ちょっと奥にうずくまってて姿が見えないから奴隷商からこの子の情報を聞き出してみよう。…………ふむふむ、獣人?しかも女の子?


…………アタリだぁああああ!!!俺は心の中で歓喜の雄叫びを上げ、小さくガッツポーズをする。まさかこんな優良物件に遭遇するとは俺、運良いわァ!こんなんもう即買いだよ即買い。


チラ見えしてる感じから言うと、不潔だけど可愛い感じがする。あとなんか耳が欠けてたり、傷がそこら中に見えるけど……そんなのはどうでもいい!


「えっ!?買うんですか?コレを?……わ、わかりました……でしたら代金はこのくらいになります。」


どれどれ?……たっか!何だこの額、俺の金ほぼ消し飛ぶが?……ま、まぁ、奴隷1人買うなら安いのか?一応買えなくはない額だし。……もっと優良なの探す?でもなぁ、これ以上はないだろ。


……よし!もう買う!決めた!買います!俺は持っている金のほぼ全てを奴隷商に渡す。これで支払いは完了だ。


「購入ありがとうございます。……ほらっ、早く出てこい。」


そう言って扉が開かれる。扉開けたら逃げられるんじゃないかと思ったが、どうやら奴隷には【隷属の印】なるものが刻まれてるから命令しない限りは逃げることも攻撃することも出来ないらしい。便利だねぇ。


そうしてフラフラと出てきたのは黒髪黒目の猫耳が生えた獣人の女の子。…………う〜ん、可愛い。汚れが目立つけど、後で洗えばいいだろう。とりあえず話しかけてみよう。怯えさせないようになるべく優しい声を意識して。


「これからよろしくね。」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


……私は生まれた時から忌み嫌われていた。


私の故郷は山の奥地にある村。そこに住む夫婦から私は生まれた。それが地獄の始まりだった。

私の容姿は母親似だが、決定的に違うところがある。それは髪と目が黒色だということだ。ただそれだけ。たったそれだけの違いで私は虐待された。


両親と目が合えば殴られ、命令に背いたら蹴られ、酷い時はナイフで体を切りつけられたりもした。理不尽な暴力で耳は欠けてしまい、歪な形になった。

家の外も安全ではなく、村の大人たちは私が道を歩けば、邪魔だと蹴り飛ばしてくる。私と同じくらいの背の子達は私に向かって石を投げてくる。それによって体には無数の傷がついていった。


なんで私だけこんな目に合うのか幼い私には何も分からなかった。「やめて」と何度言っても「ごめんなさい」と何度謝っても、止まることを知らずむしろ激しくなるばかりだった。

両親となるべく会わないようにし、いつも部屋の隅でガタガタと震えていた。恐怖が消えることは片時もなかった。


ふと、興味本位で両親が居ない時に本棚にある書物を読んだことがある。その時になぜ私が忌み嫌われているのか。その理由を知った。どうやら黒髪黒目は不吉の象徴、悪魔の生まれ変わりなんて言われているらしい。


その事実を知った瞬間、激しい憎悪が心の中で湧き上がった。そんな、そんな意味の分からないことで私は今まで苦しい思いをしてきたのかと。


許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。


……その日の夜、私は両親を殺す決意をした。酔っ払っている父親の首にナイフを突き刺して、抉りとった。悲鳴も出せずに苦痛の顔を浮かべて死んでいったのがとても滑稽で面白かった。


父親を殺した直後、母親が別の部屋から私を怒鳴り声で呼びつけてきた。


……あぁ、そういえば、まだ嫌いなやつが残ってた。

……でも、すぐに消えるから関係ないよね。

私は年相応な笑顔を浮かべながら母がいる部屋へとスキップしながら向かい、そして━━━━━━━━━



それから私は急いで村を離れた。アイツらを殺してしまったことがバレる前に遠くに行かなければ。せっかく守ったこの命を失うわけにはいかないから。

そうして夜が明けても、再び夜を迎えてもただひたすらに走り続けた。とにかく遠くに行きたかった。誰もいない場所に行きたかった。もう傷つけられることがないところに行きたかった。

しかし飲まず食わずで走り続けていたからか、次第に意識が朦朧とし、私は……






目が覚めると、薄暗くて狭い部屋に閉じ込められていた。部屋は鉄格子で区切られており、その隙間から周りを見渡すと、私の他にも閉じ込められている人達が沢山いた。

どうにかして出ようと試みたが、体力を無駄に消費するだけで意味がなかった。


それから少し待つと、小太りの下劣そうな男がやってきて、部屋へと入ってきた。チャンスだと思い、襲いかかろうとしたが、自分の意思とは関係なく止まってしまう。


何度も首を食いちぎろうと狙うも、全て失敗に終わり、そしてその度に「お仕置き」と言われ、鞭で何度も叩かれた。……やっと最悪の場所から逃げたのに、また最悪な場所に閉じ込められた。

……やっぱり私の人生は地獄だ。世界は私が幸せになることを決して許しはしないんだと思い、深く絶望した。


そして何日も何十日も経ったある日、私は運命的な出会いを果たすことになる。私はこの日のことを決して忘れることがないだろう。

いつものように小太りの男と見慣れない豪華な服を身にまとった男が辺りを歩いていた。こういった光景は日常的に見るからもう慣れた。


……でも、今日はいつもとは何か違った。見慣れない方の男がこちらの方をジロジロと見てくる。いつもなら私を見た瞬間に目を逸らすのに。


「その中にいるのはおすすめしませんよ。【悪魔の生まれ変わり】ですから」


……またそれか。私は悪魔の生まれ変わりなんかじゃないのに……その言葉にふつふつと怒りが湧き始めるが、次の瞬間、そんな感情は全て消し飛ぶことなる。


「……よし!俺この子買います!」


…………は?男の衝撃的な発言についに耳がおかしくなったのかと疑う。

……買う?……私を?

あまりの事に頭が混乱して、男たちが話してる内容が頭に入ってこなくなった。

そしてしばらく経つと部屋の扉が開いた。


「購入ありがとうございます。……ほらっ、早く出てこい。」


そう命令されると、体が勝手に起き上がり、部屋の外へと向かって歩き始める。

……今から私、あの男に買われるんだ……もしかして今よりも良い暮らしができるのかな……いや、そんなことは都合のいい事があるはずがない。


……ほんの少し期待はしたが、どうせどこに行っても同じだろうとまた心を曇らせる。

……せめてどんなクズに買われるのか一目見てやろうと思い、男の方に目を向けた。

……だが男の顔は私が想像したものとは全く異なり、とても優しそうなものだった。


「これからよろしくね。」


そして声も今まで聞いたどの声よりも優しくて温かいものだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る