第5話:夢に向かう偉大な1歩


えぇ……?ユーリくん気絶したんだけど。こんなとこで気絶されたら困るんですけどぉ!?ちょっと起きてよ!このままじゃ魔物に囲まれるよぉ!


チッ!ダメだ幸せそうな顔で気絶してやがる。起きそうにねぇ!こうなったらおぶってダンジョン出るしかねぇ!


よいしょ。……って軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?ちゃんと飯は食べるように言わないとな。俺の貴重な駒……仲間が栄養失調で倒れたら悲しいからな!

うぉぉおお!唸れ営業で鍛えた俺の足!!!



はいはい。ってな訳で脱出です。途中、スケルトンに追っかけ回されたけど、どうにか外に出ることが出来たぜ。いやぁ、疲れた疲れた。


にしてもこれからどうしようかなぁ。

まだ呪い解けてないし、俺ボロボロだし、色々しないとだな。とにかく、宿屋に行ってユーリくんをベッドに寝かせてこよう。……寝てるとこ悪いけど、金を拝借しますねぇ。仲間になる予定だから共同財産ってことで許してね。


さぁーて、ユーリくんを宿屋に置いてきたけど。俺は何しよっかな。せっかくだし、あの死神倒した時に出たドロップアイテム換金するか。ついでにギルドの職員さんは傷ついて帰ってきた冒険者を治すために回復魔法を覚えてるはずだから俺の体も治してもらおう。確かギルドはコッチだったはず。



マップを買った時にも来たけど、なかなかに慣れんなぁ。屈強な男どもが闊歩してやがる。正直スケルトンよりも怖い。


えーっと、換金所に行って。査定してもらう。ちなみにドロップ品はよく分からない綺麗な石だった。宝石の類かと思ってんだけどいくらで売れるかね。まぁ少しかかるから待つとしますか。


おっ、鑑定終わったっぽいな。…………何だこの硬貨の山は。えっ、あの石がこれに変わったの?

……うっそぉ……

思わぬ収入を得たが、なんか周りの目が怖いぜ。俺の金を狙ってるのではないかと恐怖心が高まる。こういう時はある程度使って減らすのが吉だな。ってことなので今まで金がなくて手に入らなかった冒険者ライセンス発行しに行こっと。


ライセンスを発行してもらうと、身分証代わりになるし、ギルドから依頼も受けられる。そして街を移動する際の検問所での支払いがタダになる!これは取るしかない!


はい!ということでライセンスGET!これで俺も晴れて冒険者だ!ナッハッハッハ!!……あっ、そこの受付の人、金払うんで俺の傷を治してくれませんか?ある程度の傷なら直してくれるって聞いたんですけど。……そのレベルの傷は無理?早く教会行ってこい?……はーい。


その後、俺は教会に行って諸々の怪我を治してもらい、市場へと足を運んだ。結構帰るの遅れたから土産に飲み物とか食べ物買っていかないとな。おっ、あれ美味そうじゃん!




……色々買ってたら遅くなったぜ。美味しそうなものいっぱいあったからしょうがないね。

部屋に入ると、ユーリくんの体が青白く光り輝いていた。…………なんで?


俺が入ってきたのに気づくと、体の発光が止んで、俺に向かって抱きついてきた。……う〜ん、まるで状況がわからん!!寝起きで甘えん坊モードになってるのかな?なら頭でも撫でてあげよう。よしよし。


しばらく撫でると満足したのか離れてくれた。どうやら本人曰く、目が覚めたら俺が居なくて不安だったそうだ。可愛いとこあるじゃない。


それで、なんで発光してたんだ?

……呪いが解けたから、魔法の練習してた?


ほうほう……え?呪い解けたの!?いつの間にっ!?ってかホントに呪いかかってたんだ……正直呪いなんてないんじゃないかなぁって思い始めてたのに。

まぁ、とりあえず性能がどれくらい上がったかは後で試すことにしよう。今は飯食うぞ!お腹減ってるからな!


テーブルにずらりと食べ物を並べる。今からやるのはユーリくんの覚醒を記念した祝賀会だ!盛り上がっていくぞぉ!!!

その後、宿屋の一室で楽しげに話す2人の声が響いたとさ。


後日、街の外に出て試しに支援魔法をかけてもらって、近くにあった岩を殴ってみたら、岩が粉々に砕け散った。


……すっげぇ……これがチートってやつか……



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「……ぅ……んっ?……ここは?」


目が覚めると、僕はベッドの上にいた。先程までダンジョンにいたはずなのに。……夢……だったのだろうか。辺りを見渡した感じ恐らくここは宿屋だと思う。

……ヒビキさんはどこだろう。居ないってことは出かけてるのかな?……寂しいな。もしかして僕を見捨てて……


そう思うと心がぎゅっと締め付けられるような感覚に陥る。……落ち着け、大丈夫。ヒビキさんはそんなことしない。

とりあえず今は帰りを待とう。


……そういえば、もしあれが夢じゃないなら。目を閉じて自分の体に意識を集中させてみる。


「えっ!?」


体に巡る魔力に驚愕する。以前の何倍……何十倍もの濃度。こんな魔力が自分の体に収まっているなんて……正直信じ難い。けど紛れもない事実だ。

やっぱり夢じゃなかったんだ……でも呪いが解けただけでこんなになるものなのかな?あの骸骨を倒したことで何か得たとか?……多分、いくら考えても答えは出ないから、深く考えても仕方ない。


そんなことより今は自分の力を試してみたい。どのくらい向上したのかを確かめるために自身へと魔法をかけてみる。


「【付与・再生】」


自然治癒能力を向上させる魔法を使う。確か昨日のダンジョンで倒れた時に足に擦り傷がついたはずだからそれの治る速度を見てみよう。


「えっ?」


足を見てみると、ついた傷が綺麗さっぱり消えていた。あまりの回復速度に目を丸くしてしまう。


「普段なら10分はかかるのに……」


10分が数秒に……自分の成長に笑みがこぼれる。他の魔法も試したくてウズウズする。その時、この部屋の外からドタドタとこの部屋へと向かう足音が聞こえた。



「おーい、帰ってきたよ……ってなんで光ってるの?」


ガチャりと扉が開くと、そこから待ちわびいた人物が姿を見せた。


「あっ……ヒビキさんっ!」


僕はベッドから飛び起きて、そのままヒビキさんに抱きついた。


「おっ、どうした?」


ヒビキさんは困惑しつつも、僕の不安な気持ちを察してくれたのか、優しく頭を撫でてくれた。

しばらく抱きついていたが、途端に恥ずかしくなり始めたので急いで離れた。


「んで、なんで発光してたの?」


「それは……せっかく呪いが解けたから魔法を試したくなっちゃって、つい。」


「そっか〜。………………ん?呪い解けたの?」


「はい!ヒビキさんのおかげで無事に解けました!本当にありがとうございました!!」


「おぉ!マジか!ならお祝いだな!!」


そういうとヒビキさんは部屋にあるテーブルに食べ物とそれを乗せる皿を並べだした。どれも香ばしい香りがして食欲を掻き立てられる。


「お土産でいっぱい買ってきたから一緒に食べよ。美味しそうなのばっかだからさ!」


「え?……いいんですか!?」


「良いに決まってるでしょ!今日の主役はユーリくんなんだから君が食べないと!ほれっ、あ〜ん。」


そう言ってヒビキさんは肉の串焼きを僕の口元に差し出してくる。さ、さすがにこれは……///でも、せっかくヒビキさんが好意でやってくれてるんだしっ!


「あ、あ〜んっ……!///」


思い切って口を開けて、お肉を口の中へと持っていく。お肉はとても柔らかく簡単に噛みきれて、噛めば噛むほど肉汁が溢れて、濃厚な味わいが口いっぱいに広がる。


「どう?美味しい?」


僕はコクコクっと何度も首を縦に降った。でもさすがに恥ずかしいので、あーんはやめてもらった。

その後も色々食べながら色々と談笑をして、

1日が終わった。……こんな日が続けばいいな。


そして後日、街の外に出て強くなった魔法を試すことになった。正直とてもワクワクしている。


「よーし!俺にかけてみなさい!」


「はい!【付与・強化】!」


僕がヒビキさんに魔法をかけると、ヒビキさんの周りに赤色の粒子が浮かび始める。支援魔法がかかったらあんな風に発光するから分かりやすい。


「おー、今ん所あんまし強くなった実感ないけど。じゃあこの岩に向かって殴ってみるか。」


「えっ?さすがにそれは」


「オラァアアアアアッッ!!!」


ヒビキさんが近くにあった大きめの岩に拳を叩き込むと、一瞬にしてヒビが入り、簡単に砕け散った。四方八方に岩の破片が飛び散っていく。


「…………へぁっ」


あまりの衝撃に情けない声出しながら腰を抜かしてしまう。頑張ってかけた魔法とはいえ、あんなに強化されるなんて思いもしなかった。自分の力が少しだけ恐ろしいと感じた。

そんな僕の元へヒビキさんが駆け寄り、そしてこう言った。


「めっちゃ凄いじゃん!やっぱり俺の思った通り君は凄い子だ!!君ならきっと世界一になれるよ!!」


その言葉で少し芽生えた恐怖心なんてどうでも良くなった。そのくらいヒビキさんに褒められたのが嬉しかった。


そしてヒビキさんはニヤリと笑みを浮かべながら、さらに言葉を続けた。


「それでさ、1つ提案なんだけどさ。今まで協力関係だったわけじゃん。でもさ、それってなんか繋がりが薄い気がするんだよね。」


「……?」


「ユーリくん、俺の仲間になってくれないかな?俺と一緒に夢を追い求めてくれ。」


そう言って初めて会った時と同じように手を差し伸べられた。


…………仲間になりたい。僕もずっと思っていたこと。僕もヒビキさんともっと一緒にいたい。なら答えはもう決まっている。


「はい!」


僕は差し伸べられた手を強く握った。あの時よりも、もっと強く。信念を込めて。


この人と一緒ならきっと世界一になれる。


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