第15話

「鈴山美月」の月の字が汚れてる。


上履きも、盗まれるのはなかったけれども汚された。絵の具に色鉛筆、泥。


お母さんに心配されるのが嫌だから、持ち帰らなかった末路。


結局、昨日のことはよく覚えていない。でも、あたしの右手首には、ブレスレットが輝いている。


ジュースは全部話してくれて、お詫びにとブレスレットを差し出してくれた。


でも、なんだか腑に落ちなかった。子供なあたしには、到底納得できない。


高校生か。


高校生にもなれば、小学生のあたしの悩みなんて、ちっぽけだと思ったろうなあ。


いいなあ。


青とピンクが交わった、きれいなブレスレット。こんな物で釣ろうと思ったのか、ただの善意か。


でも、悪い気はしなかった。学校にこっそり持ってきちゃうほどだから。


「みーちゃん、そのブレスレットどうしたの?」


席が離れたはずのアカネが、山崎をチラ見しながら言った。


「貰ったの、大事な人に」


マウントをとるつもりでそう言うと、隣の山崎がこちらを見た。


気付いたんだろう、山崎も。このブレスレットがジュースのものだと。


「へぇー。山崎?」


アカネは本当に酷い人だ、あたしの傷を抉ってくる。


「違うよ、あたしにもね、大事な人くらいいるの」


そっぽを向いて、もう聞き入れない。一人でいい、一人で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る