第12話

「好き、だったよ」


そう呟くと、山崎はあたしの頭に手を置いた。


「僕も、ジュースさんとの話が好きだった」


そういう横顔が、太陽に照らされて光っているように見えた。


「山崎も、あの人と話したの?」


そう言うと、深く頷いた。


「あの人の話を、いつも聞いていました」


それも、ジュースの話だ。あたしはただ一方的に話すだけだったのに、山崎は逆。


「最近は学校に行くようになって、黒髪になったんですよね」


そんなこと、あたしは知らない。学校?学校に行ってるの?


「高校に上がってから勉強をしっかりしようと、頑張ってるって」


高校生になったの?あたしを置いて?


あたしの話を聞いてくれていたくせに。勉強とか、なんなのあいつ。


「前は校則違反の髪色で学校もサボっていたけど、真面目になったもんですよ」


そう話す山崎も何もかも、嫌だった。あのままでいて欲しかった。歳なんて取らないで。


あたしから離れていってしまう気がする。


「山崎は、なんて名前で話を聞いてるの?」


あたしがカナタと呼ばれるのなら、山崎も偽名で呼ぼうと思った。


「イオリ」


そうとだけ言って、あたしに背を向けた。もう涙は出なくなっていて、秋の風が涙をさらっていった。


「イオリ、ね」


立ち上がると、イオリはあたしに向かって笑いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る