第10話

誰なのさ、あんた。


「カナタちゃ――」


「気持ち悪いんだよ!」


ジュースがあたしの偽名を呼ぶのを遮って、あの顔を指さした。


「……え……?」


目を見開いたジュースは、固まった。


こんな、自分よりも汚い人に話したくなんてない。全部話してやってたのに、なんで何も理解してくんないの。


「あんたはもうジュースじゃない」


顔を出した涙を拭き取って、店から飛出た。


大好きなものが勝手に姿を変えて、知らない好きじゃないものになった。


汚された。


なんだか少し怖くて、足が動かなかった。衝撃というか、恐怖というか。


その場にしゃがみこんで号泣した。あんなの、ジュースじゃなかった!


道行く人に見られまくって、恥ずかしいけど、助けて欲しかった。


あたし、そうなんだよなあ。喧嘩って言ってるけど、本当は心の奥まで見透かして欲しい。


わがままな、子なんだよ。


涙で溺れかけたあたしの足元に、一つ影が落ちた。


「あの……」


バ、と顔を上げると、山崎がいた。


メガネ越しに、辛そうな顔が浮かぶ。山崎は、助けてくれる?


「鈴山さん」


その名で呼ばれるのは、ちょっと嫌いなのだけど。


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