第9話

「ごめん、帰ってくれる?」


ジュースは、そう言った。紛れもない、あたしに向かって。


「なん、で?」


ジュースにまで嫌われたんじゃないか。あたし、またやっちゃったかな。


「……考えたいの」


そう顔を伏せたから、あたしは店からゆっくり出た。


ジュースが辛そうな顔をしたから、離れた方がいいと思った。


それから数日経って、久しぶりに駄菓子屋に行った。


あ、振鈴研究所って言ってなかったね。


振鈴研究所っていうのは、暇そうなあたしのために、ジュースがつけた駄菓子屋の別名。


なんかカッコイイでしょ、あたしも一員なの。


「ジュース!」


駄菓子屋の重い扉を開いて叫ぶと、全く知らない人が顔を上げた。


黒髪ロングメガネ、髪ボサボサの汚い女の人。


「……えっ、と……」


誰か分からなかった。


ジュースは?そう聞こうと思ったけれど気づいた。


その、ブレスレット。青からピンクに、ピンクから青に。


グラデーションの綺麗なブレスレットは、ジュースの宝物のひとつだった。


「ジュース、なの?」


そう聞くと、その女は頷いた。


でも、いつものキラキラのオーラはなくて、知らない人みたいだった。


まるであたしみたいに疲れきって――ゴミだよこんなの。


こんな人に話しに来たんじゃない。こんなの、研究員じゃない。

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