第2話

そこは病室のベッド。


心配そうにこちらを見る母親と目が合い、俯いた。


「美月、大丈夫?お母さんのこと、分かる?」


頷くと、静けさが加速して、病院だと改めて感じる。


「記憶障害だって、聞いたの」


その沈黙を破るように、母親はこちらを伺った。そんな優しさがちょっときもくて、耳を塞いだ。


ベッド脇のタンスに置かれたスマートフォンの液晶が光る。


夕方みたいだ。


スマートフォンを手に取って、トーク履歴を見返す。


「akane」、田中あかね。小学生の頃の友達。


喧嘩ばっかりのトーク履歴だけど、楽しかったんだ。喧嘩すらも。


目が覚めたら小学生に戻ってたら良かったのに。こんな人生ならいらないよ。


一生あのままが良かった。スマートフォンを置いて、深呼吸をした。


小学生の頃の自分の写真なんて、残ってない。


卒アルのあれだけだ。小四の時とかのは、ない。


欲しかった。残しておくべきだった。今後悔しても遅いんだな。


「みーちゃん、ね」


小学生時代のあだ名だった。あかねによく呼ばれていた。


もう忘れた声が聞きたい。もう忘れた教室を見たい。

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