第十九話 二人ぼっちの勉強会
「小太郎、入るわよ~」
ユメとのデート……まあ、デートから数日。そろそろテスト前という事で勉強している俺の部屋の扉がコンコンコンとノックを三回される。『はいよ』と了承の返事をすると、入って来たのは……なんだ、母さんか。そう思いそちらに視線を向けるときょとんとした表情を浮かべるマイマザー。なんだよ?
「……どうしたの? 熱でもあるの?」
……おい。
「……勉強してる息子の前での第一声がそれかい」
「だって……小太郎だもん」
「どういう意味だよ! 俺だってテスト前は勉強ぐらいするわ!」
「アンタはテスト前でもゲームばっかりしてる残念な子でしょうが!」
「その発言が何より残念だ! つうか声を大にしてまで言う事か、ソレ!」
ったく……人が折角真面目に勉強してるっていうのに! このアホが!
「……アンタ今、失礼な事考えたでしょ?」
「か、考えてねえよ!」
マジでエスパーかよ。最近、感が鋭すぎないか?
「そ、それより何の用だ?」
「そうそう。お母さん、ちょっと出てくるわ。山田さんと吉村さんと三人で映画見て、フランス料理のフルコース食べてくるから、ちょっと遅くなるかも」
「……マジかよ。豪勢な話だな。なんだ? へそくりでも使うのか?」
「うん。お父さんのへそくりだけど」
「オニかアンタは! 可哀そうだろうが!」
「なによ? 小太郎にも上げようと思ったのに」
「……」
「……」
「……楽しんできて下さい、綺麗なお母様」
「うん。それじゃ晩御飯はユメちゃんと適当に食べてね~」
そう言って、部屋を後にする母親を、俺は優しい目で見送った。……すまん、親父。俺も今月、ちょっとピンチなんだ。
「さて、勉強の続きでも……って、あれ?」
机の上の本立のあるべき場所に、いつもある物が無い事に気付く。
「英和辞典……どこ置いたっけ?」
学校忘れて来たか? 珍しく勉強しようと思うとこれだ。ったく……
「……しゃーない。ユメに借りるか」
自分の部屋を出て、向かいのユメの部屋へ。コンコンと扉をノックすると、中から『はい?』という声が聞こえて来た。
「俺。ちょっと良いか?」
「小太郎? 良いわよ」
了承を取り付けて、ユメの部屋の扉を開ける。机と、テレビと、本棚と、ベット。女の子としては若干、飾りっ気の無い部屋。その机の前では、ユメが机に向かってお勉強中。
「どうしたの?」
「英和辞典、あるか?」
「英和辞典? ……なに? 小太郎も勉強中?」
「そんな所だ」
「へー……偉いじゃん」
「まあ、テスト前だからな……と、お前も英語か?」
ユメの机の上には英和辞典と英語の教科書。うわ……タイミング悪ぅ!
「そうだけど……」
「そっか。んじゃいいや。終わったらちょっと貸してくれ」
「あ、ちょ、ちょっと! 小太郎も英語の勉強、するんでしょ?」
「いや、俺は先に数学済ますわ。お前が終わったら辞書貸してくれ」
俺の言葉に、きょとんとした顔になるユメ。
「……何で?」
いや、なんでって……流石に英和辞典ないと英語はちょっと厳しいんですが……
「……そりゃ、辞書忘れて来た俺が悪いけど……貸してくれてもバチはあたらんだろう?」
俺の視線に、ユメが苦笑を浮かべて首を左右に振って見せる。
「そんなに感じ悪くないわよ。そうじゃなくて……一緒にやれば良いんじゃない? 私も英語しているし、小太郎も一緒に勉強すればいいじゃん」
「……おお」
……その発想は無かった。
「……いいのか?」
「一人でやるとなんかだらけちゃうし、むしろ小太郎が居てくれた方が有り難いわ。それに、ほら……教えて上げるよ?」
「……そいつは非常に助かる」
英語はそこそこ得意科目だが、ユメの方が成績は良いからな。
「それじゃ机出すね。ちょっと待ってて」
そう言って、押入の中をゴソゴソ漁るユメ。ふむ……。
「……ん?」
ベッドの枕元に、俺が先日救いだした例の猫のぬいぐるみを発見。
「どうしたの?」
「飾ってるのか、アレ?」
「アレ?」
押入から顔だけだし、はてな顔。やがて、得心いったかのように一つ頷く。
「うん。可愛いし!」
笑顔を浮かべ、そう言うと、ユメはまた押入の中に顔を戻す。
「……大事にしてくれてるんだな」
ぬいぐるみは木で作られたベンチのオブジェに腰を掛け、部屋の中を見渡しているようだ。元々綺麗な部屋だが、そこだけ特別綺麗な気がするのは……そう思いたいからだろうか?
「あった!」
押入から机を取り出し、部屋の真ん中に置く。向かい合わせの形で、俺も腰を下ろす。
「それじゃ、始めましょうか」
英語の勉強会は、一時間弱行われた。
「……なんだ小太郎。英語、結構出来るじゃん」
「まあな」
英語は結構、得意科目。ありがちな展開だが、中学の最初の英語のテストで百点なんぞとってしまって、ついつい嬉しくて勉強したクチだ。
「へー。そのまま続ければ良かったのに。そしたら、学年トップとかだったかも」
「んな訳ねえよ。それに……前も言ったろ? そこそこで良いんだよ、俺は」
「……嘘ばっか」
「嘘じゃねえ――」
「最近、遅くまで勉強してるでしょ?」
知ってるのよ? みたいな顔をするユメ。
「……そりゃ……ホレ、あれだ」
「もう! 照れなくてもいいじゃん。頑張ってる小太郎、私は良いと思うよ?」
……クソ。顔が熱い。アレだ、頑張るなんて、やっぱり格好悪いと思うお年頃なんだよ。
「そ、それより! 今日、どうする?」
「今日って?」
「あ? 聞いてないのか? 母さん、映画見て飯食いに行くから、晩御飯はお前と二人で食えって」
「あ、そうなの? そう言えば、さっきから静かだなって思ってたけど……」
と、そこまで言って、不意にユメが何かに気付いた様にはっとして、頬を赤く染める。
「どうした?」
俺の言葉に、ユメは頬を真っ赤に染めて。
「え? な、なんでも無いよ! た、ただ! そ、その……それじゃ、今、この家って私と小太郎の二人きりなんだなって……そ、その……ちょ、ちょっと照れるっていうか……」
……そんな事言うと、俺だって変に意識するだろうが! しかも今はユメの部屋で二人っきり! やべ、俺まで顔が熱くなってくる!
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