第十八話 小太郎の変化

 結局、スカートを一着とジーンズを一着、それにインナーのシャツを二、三枚買ってユメの買い物は終了。値段も二万円ちょっとと、結構リーズナブルなお買い物だ。




「うーん……今日はいい買い物したな! 小太郎は面白かったし!」




「……だから、うるせぇよ」




「顔真っ赤にして……意外に可愛い所あるね、小太郎」




「……もう、お前と、買い物に、行かん!」




「冗談だってば。もう、人間小さいな~小太郎は。身長と一緒」




「身長は関係ねぇ!」




 そう言ってクスクス笑うユメ。ったく。




「……あ」




 尚も何か言い掛けて、ユメが口を噤む。なんだ? ユメの視線の先に目を向けて――アクセサリー?




「どうした?」




「ん? ほら、ネックレス。可愛いなって」




 ユメの指差す先を眺めて――……え?




「……あの首輪みたいなやつ?」




 俺の視線にユメが顔を真っ赤にする。いや、え、ええっと……あの、え、ええ~? い、いや、サキュバスっぽいと言えばサキュバスっぽいんだが……え、ええ~!?




「――っ!! 違うわよ!? 言ってるでしょ、サキュバス差別は止めてって!! ネックレスって言ってるのになんでそんな発想になるのよ!? その隣!! ペンダントトップが花になっているやつよ!!」




 そう言われて、再び視線をアクセサリーに。ああ、あれね。




「…………びっくりした」




「こっちのセリフなんだけど!?」




 いや、マジですまん。そんな俺に『もう』と不満そうにほっぺを膨らませた後、アクセサリーの方に走っていくユメ。おい、引っ張るな!




「やっぱり、近くで見ても可愛いな~」




 ネックレスを逆さにして見たり、下に向けてみたり、上から眺めてみたりと、まあ何とも忙しい奴だ。




「……そんなに気に入ったのか?」




「うん。可愛いもん! 一目ぼれってやつ!」




 俺の言葉も上の空に、ネックレスを眺め続けるユメ。五分ほどそうした後、諦めたようにネックレスを棚に戻した。




「買わないのか?」




「うん。ちょっと使いすぎたからね。可愛い服も買えたし、縁が無いと思って諦めるわ」




 そう言いながらも、棚の前から離れようとしないユメ。その横顔は、『諦めた』と、口で言ってるほど簡単には諦めていない様でして。




 ……仕方ねえな。




「……貸せ」




「へ?」




「そのネックレス、貸せ」




「う、うん」




 ユメの差し出したネックレスを掴み、そのままレジへ。




「ちょ、ちょっと!」




 ユメの言葉を無視し、俺は会計を済ます。『ありがとうございました~』の声を背に受けて、呆然としているユメに今買ったばかりのそれを手渡す。




「やる」




「や、やるって!」




「プレゼントだ」




「プレゼントって、貰えないよ!」




「いいよ」




「よ、よく無いよ! 理由も無いのに!」




「理由? ああ、あれだ。今日は服を選んでもらったし、そのお礼だ」




「お礼って――」




「とにかく! もう買ったんだからしかたねぇだろ。それとも何か? お前は俺にそれをつけて街を歩けと?」




「……っぷ」




 その姿を想像したのだろう。ユメが小さく笑う。




「……うん。分かった。大事にする。ありがとう、小太郎」




「そうだな。大事にはしろ」




「うん!」




 そう言って袋を抱きしめ、はにかんだように笑うユメ。そんな顔されたらこっちが照れるじゃねえか。ゲーセンでも言ったけどさ……調子狂うな、おい。




◆◇◆




「ふう……疲れた」




 あの後、もう一度ショッピングモールを一周。靴やら服やらをもう一度見て食事をし、帰って来たのが午後七時を少し回った所だった。事前に親に連絡を入れていたので、ユメより先に入浴、今に至るって訳だ。




「結構、痛い出費だったな」




 何だかんだで三万以上使っている。お年玉貯金があるものの、バイトもしていない高校生には結構キツイ出費ではある。あるが……




 帰ってきてすぐにハンガーにかけてある服に視線をやる。普段ならすぐさま洗濯カゴに放り込む所だが、『ジャケットは毎日洗うものじゃないし、皺になるからちゃんとハンガーにかけておくのよ!』と言うユメの指示通りにしている。




 これを着て帰って来た時は結構痛快だった。母親なんか『どちらさまですか?』なんてとぼけた事言ってたし。まあその後、『小太郎……折角可愛い顔に産んであげたのに、全然お洒落しないから……孫の顔は諦めて居たのに、良かったわ!』なんて失礼なことを言っていたが。




「外見ね……バカにしてた訳じゃねえんだけどな」




 そっと、服の裾を掴んでみる。今日の俺、いけてたんじゃない? なんてとぼけた事を言うつもりはさらさら無いが、お洒落して歩くというのも……こそばゆいが、悪くは無い。そのまま視線を勉強机へ。宿題、出てたよな……




『『男は中身だ!』って意見自体を否定するつもりはさらさらないけど、『外見は関係ない』って意味じゃないのよ? 外見を上回る中身があれば外見は補えるけど、中身も外見もある方がいいのは当然でしょ?』




 ユメの言葉が頭の中で響く。だよな、外見整えるだけじゃなく、中身もいるよな。委員長云々はともかく……努力、ね。




「……宿題でもするか」




 べ、別にユメに言われたからとか、もてたいからとか、そんなやましい気持がある訳じゃねえぞ! た、ただ、自分の為にだな!




 ……誰に言い訳してるんだ、俺。




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