第十一話 敏腕プロデューサー、ユメP爆誕!



「は? じゃないわよ! アンタ、もう少し努力しなさい! なんでそんなに適当なのよ!」


「適当……か?」


「そうよ! 学校でずっとアンタを見てたけど……か、勘違いしないでよね! 別に見てたからって好きとかそんなんじゃないから!」


「分かってるよ。分かってるからそんな一生懸命に否定するな」



「そ、そう? と、とにかく! 貴方、なんでそんな手を抜いてるのよ!」


 ……なんで手を抜いてるかって。


「……んな事ねえよ」


「嘘ばっかり! 朝の国語の時間だってそうよ! 折角答えを教えて上げたのに、『わかりません』とか言うし!」


 ああ。朝のアレはやっぱり『3』って言ってたのか。答え、教えてくれてたんだな。


「さんきゅーな」


「ソレは別に良いんだけど……って言うか、折角教えて上げたんだから、ちゃんと答えなさいよ! なに? 信用できなかったの?」


「そういう訳じゃねえけど……別に、そんなに一生懸命頑張らなくても良くないか?」


「良くないわよ! 体育も数学も物理も……部活も! もっとしゃんとしなさいよ!」


 ……よく見てるな、コイツ。



「そこそこで良いんだよ、俺は」


「なんでよ!」


「今から勉強しても俺のいけるような大学は限られてるし、絵にしたってそんなに上手い訳じゃない。適当でいいんだよ、適当で」


 そう。俺の人生こんなもん。一生懸命頑張るなんて、格好悪い。それ、なんて漫画? の世界。


「アンタね……そんなんで人生楽しいの?」


「それこそ放っといてくれ。俺はこれでいいの」


「ふん。そんなんだから委員長にも告白できないのよ!」


 ……は?


「ななななな何を言ってやがる!」 


「隠しても分かるわよ。美術部でちょっと委員長が近くに来ただけできょどってたしさ? ババ抜きの時も、手が触れただけで顔真っ赤にしてたし。あれ、結構キモかった」


 な、なななななにを仰っていまするか!


「そ、そんな事ねえよ! あとキモいって言うな!」


「声が裏返っているわよ?」


「う、うるせえ! い、いいか! べ、別に俺は」


「あーはいはい。分かったわよ。それじゃそういう事にしておきましょう。でも、アンタが委員長狙いね……」


「……何だよ、その眼は」


「いや、その……」


「言いたい事があるならはっきり言え、はっきり!」


 俺の言葉に、ユメはにっこりと笑って。



「身の程を知れ」



「はっきり言い過ぎだ!」


「なによ。はっきり言えって言った癖に」


「そ、それはそうだが……大体、別に俺は委員長狙いじゃねえ」


「……」


「なんだ、その無言のプレッシャーは」


「……小学生じゃあるまいし、好きなら好きって言えば良いじゃない」


「だ、だから別に好きじゃないし……って言うか、どっちにしろ俺なんか相手にして貰えないさ」


「なに? 戦う前から敗北宣言? うわ、ダサ」


「さっき身の程を知れとか言ってたじゃねえか!」


「そうだけど……なんか、それじゃあんまりに格好悪いわよ」


「放っとけ! 大体、委員長とはそんなに仲良くねえんだよ、俺は!」


「へ? そうなの? 同じ美術部なのに?」


「そうだよ」


「なに? もしかして、美術部で人が居ない事を良い事に無理やり……うわ、変態! 最悪! 近くに寄るな!」


「痛えよ! 勝手に妄想してカバンで殴るな! そんな訳あるか!」


「あ、ご、ごめん。小太郎なら有り得るかと」


「有るか! 大体、そんな事があったら委員長はとっくに部活を辞めてるわ!」


「それもそっか。そうだよね……でも、じゃあなんでそう思うの?」


 ったく……。


「……委員長はお前の事、どういう風に呼ぶ?」


「へ? 『ユメ』って呼ぶけど……」


「だろ? 俺と委員長、中等部の一年の時からずっと同じクラスだし、部活も一緒だけど、委員長は俺の事『葛城』って名字で呼ぶんだよ」


「それは、あんたが男の子だからじゃないの?」


「んな事ねえ。委員長は大体の奴は男女の別なく名前で呼ぶんだよ。現に、修斗も四年間一緒だけど、修斗の事は修斗って呼ぶしな」


 つまり、俺は修斗以下って事だ。四年間一緒にいて、部活も一緒。異性を下の名前で呼ぶことに然程抵抗がない女の子が苗字呼びって事は……ま、そう言う事だろ。これが俺だけ苗字なら特別感もあるんだけど……委員長、あんま仲良くない奴は普通に苗字呼びだし。



「まあ、そういう訳で人の恋路の詮索をするぐらいなら、お前はさっさと元の世界に帰れ。この純情サキュバス」


 あ、やば! 調子に乗って軽口叩いた。このままでは、間違いなくカバンが俺の顔にヒットする! 


 そう思ってとっさにガードの姿勢を取るも、カバンが飛んでくる気配は一切無し。あ、あれ? 恐る恐るガードを解いてみる。と、そこには何やら空中を見つめてぶつぶつ言ってるユメの姿が。


「……わかったわ」


「……へ?」


「分かったわ小太郎! 私が協力してあげる!」


「……はい?」



「つまり、委員長が『小太郎、格好いい! 好き……付き合って……』って言う様なイイ男に私が育ててあげる! 一宿一飯の恩義もあるし……任せて! 冴えない小太郎をモテモテイケメン男子にプロデュースしてあげるわ!!」



 ……何を言っているんですか、ユメさん?


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