第六話 美少女ってやっぱ得だよね? 設定に無理があってもどうにでもなるもん
全員が息を呑む中、そういってユメはゆっくりと頭を下げる。まるで流れるようなその姿に男子は勿論、女子の間からも感嘆のため息が漏れた。あいつ、所作綺麗だな~なんて思いつつ、やっぱり皆がユメの姿に見惚れてる姿に『やっぱりな』という感想が浮かぶ。流石、サキュバス、魅力カンストだよな。
……まあ、唯一人を除いては、だが。
「か、葛城やと~!? どういう事やねん!? 葛城って……葛城!?」
声は真後ろから聞こえて来た。つまり、修斗の声だ。椅子をけたたましく音を立てて立ち上がり、視線を姉御に向ける。
「ふふふ! びっくりした~? 彼女、葛城ユメさんはウチのクラスの葛城小太郎君の妹で~す」
悪戯がバレたかのような楽しそうな姉御の声。いきなりばらしていくスタイルですか、そうですか。
「どどどどどういう事や、姉御!? コタローの妹!? どういう事やねん!?」
「こら、大場君! 姉御じゃなくて、遠藤先生でしょ?」
「そ、そないな事はどうでもええやないですか! せ、説明を! 説明をプリーズ!」
「ちょっと落ち着きなさいよ、大場君」
「こんなん落ち着いて聞いてられるかいっ! ええい、らちがあかんわ! どういう事やコタロー! 説明せんかい! なんや!? どういう事やねん!!」
修斗の言葉に、同意するかのようなクラス中の声が響く。いや、まあ俺だって『この子、大場君の義妹でーす』とか言われたら同じ感想になるわな。ただ、まあ……
「どういう事って……こういう事だよ」
俺だって説明できんよ。むしろ誰か俺に説明してくんない? テレビの中からサキュバス出てきたら、義妹になってましたってどういう状況よ、これ。
「納得できるか! 双子の妹か! 生き別れた双子の妹なんか!?」
「似てないだろう?」
冴えない男子の俺と、絶世の美少女のユメ。双子は無理ない?
「男と女の双子やったら二卵性双生児やから似てへんでも……いや、それでも三年もコタローの家で同じ釜の飯を食った無二の親友である俺が、そんな素敵な事実を知らへん筈がない!」
「同じ釜の飯というか、お前はタダ飯を食いに来ただけだろう?」
「なんや!? ほなら、腹違いの妹か! 健司さん、実はモテモテやったんか!?」
「……その展開なら、俺は親父をぶん殴っていた」
そもそも親父、母さんにベタ惚れだしな。仲が良いのは構わんが、息子の前ではやめてくれ、マジで。なんかすげー嫌だから。
「アホか! コタローが殴る前に香澄さんが刺すわ!?」
「当たっているから何とも言えないが……お前は人の母親を何だと……」
俺のセリフに修斗が『はっ!』と何かに気付いた様な顔を浮かべ、恐る恐る口を開く。
「ま、まさか……種違いの……妹?」
「その展開なら親父が絶望する。ってどっちにしろ俺の親父に未来が無いぞ。それと、種違いの同い年の兄妹って、ちょっと設定に無理が無いか?」
「ほならなんやねん!」
「種も畑も違う、同い年の兄妹だ」
「種も畑も違う同い年はタダの同級生や!」
――ごもっともで。でもな、修斗? 世の中は往々にして想像の斜め上を行くわけですよ。
「私は、葛城家に養女に来たんです。一応、私の方が誕生日が後ですので、戸籍上は葛城……小太郎君の妹、となっています」
俺と修斗の漫才を止めたのはユメの声。いや、別に漫才をしてた訳じゃないけど……と、今度は別の方から声がかかる。今度は女子の声。
「ええっと……なんで葛城君の家に?」
「……実は、両親が交通事故で亡くなりまして……それで途方に暮れていた所を、幼馴染である小太郎君のご両親に引き取って頂きまして……」
不意に悲しそうに目を伏せるユメ。事情を知らないと、なんだか本当に悲しそうに見える。演技派だな、おい。
ウチのクラスの連中も、その演技にころっと騙されてやがる。なんだかお通夜みたいな居心地の悪いしんみりした空気が流れる。そんな雰囲気を変えたのも、また、ユメだった。
「で、でも! 小太郎君のご両親も、小太郎君も、本当に良くしてくれています! だから、私は全然平気です!」
そう言って健気に、でも気丈に振る舞う――演技をする――ユメに、教室中から暖かい空気が流れ始める。見ろ、姉御なんか目尻の涙をそっとぬぐっているジャマイカ。
「このクラスには小太郎君も居るので、出来れば皆さん、葛城さんではなく、気軽に『ユメ』って呼んで頂けると嬉しいです!」
そう言ってぺこりと頭を下げるユメに、我が愛すべきクラスメイトは拍手と歓声で答えたのであった。
……やれやれ。
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