第五話 やっぱり、お約束の展開だよね~
「……はあ」
教室について自分の席にカバンを降ろす。朝からサキュバス……じゃなくてユメと話した(怒鳴りあった?)せいで、どっと疲れた。え? ユメはどうしたかって? あいつ、一応転校生だからな。職員室まで連れて行ってそこで別れたよ。
「よう、コタロー。どないした? 疲れた顔してるやん? ゲーム疲れか?」
後ろの席から聞こえる声に振り返る。と、そこにはまずまず男前の風貌の男がそこに一人。
「ちげえよ」
「そうかいな。ほな連休明けでもしゃんとしーや。今週は木・金と行ったらまた休みや! 元気出していこうや!」
「……そうだな」
「あ、せや。土産忘れてた。ホイ」
「ああ、さんきゅ。別にそんなに気を使わんでいいのに」
「何言うてんのや。コタローの分やあらへん、香澄さんの分や」
そう言って、にやけ面を更に笑顔にする我が級友、大場修斗。
俺の通う天英館高校は付属に中学校を持つ中高一貫のミッション系私立校。まあミッション系、と言っても、校舎内にチャペルがあったり、朝夕にお祈りしてみたり、カリキュラムに『神学』なんてものがある様なガチガチの学校じゃ無く、キリスト教の名残と言えば校是である『自由』と『友愛』ぐらい、と言うゆるーい学校だ。
俺と修斗の出会いはその天英館中等部の入学式にまで遡る。『大場』と『葛城』だから、出席番号は一つ違い。入学式の席順で、前・後の関係になった事に由来する。
『なあなあ、兄ちゃん』
『……喧嘩売ってるのか?』
『何でやねん! 級友に声かけただけでそんな扱いかい!』
『いきなり、なあなあ兄ちゃん、と来たらちょっと金貸してくれ、と言われるのが常識だろう?』
『何処の世界の常識やねん、こわっ! せやないって……なあ、友達にならへん?』
『……え? なんで?』
『え? なんでってなに? 普通、そういう返しになる? もしかして俺、初対面から嫌われてたりする?』
『……冗談だ。よろしくな』
『やった! ……いや、やったのか? 喜んでええのんか? ま、まあ、とにかく俺、大場修斗言うねん! 和歌山から出てきてんけど、こっちに友達おらへんから往生しとってん!』
『俺は葛城小太郎』
『名前、渋いやん! 戦国武将か!! ほいでも『かつらぎ』はちょっと呼びにくいわ……せや、コタローって呼んでもええか?』
『いいけど……』
『ほな、俺の事も『修斗』って呼んでな!』
みたいな心温まる会話があって、三年たって今に至る。ちなみに都内にある天英館だが、修斗の父親の出身校らしく、『どうしてもお前も天英館に行け!』という父親の命令で、わざわざ和歌山からこっちに進学、一人暮らし中。親がウザい年代の俺からしたらうらやましい限りだ。
「実家に帰ったのか? 和歌山だろ? 結構遠いのに……」
「まあ、四日もあったさかい。たまには顔だしとかへんと、おかんと妹がうるさいねん。ちなみに土産は梅干しな。市駅の売店で売ってるやつやねんけど、これ、めっちゃうまいねん! 香澄さん、梅好きやろ? ちゃんと渡しといてや~」
そんな羨ましい一人暮らし中の修斗だが、家庭料理に飢えているらしく二週間に一度ほどは我が家に顔を出す。母親も修斗の事はいたく気にいっており、『たまには修斗くんを連れてきなさい!』と晩飯時には良く口にするぐらいだ。あれ? そう言えば『修斗君が家の子だったら良かったのに』とかも言ってたな……今朝もユメに『貴方だけが、家の子よ!』みたいな事言ってたし……もしかして俺、愛されてない? 俺、橋の下で拾われた子なの?
「な、なんや、急に凹んで! どないしてんなコタロー!」
「いや、ちょっと自身の出生の秘密についてな」
「おもっ! 連休明けにする会話やないやん!? な、なんや? ひょっとして、香澄さんにお土産買ってきたって言ったんを気にしてんの? あんなもん、冗談やで? コタローも含めてのお土産に決まってるやん! ちょっと小粋なワカヤマン・ジョークやないか」
「なんだよ、ワカヤマン・ジョークって」
「格好いいやろ? ワカヤマン・ジョーク。アメリカン・ジョークみたいで」
「取りあえず、お前が残念な感性の持ち主なのは分かった」
「残念な感性って……失礼な奴やな」
憮然とした表情を浮かべる大場。それも一瞬、ニヤリとその顔をゆがめて見せる。
「ほいでもええんか? 俺にそんな事言うても?」
「……どういう意味だ?」
「ふっふっふ。実は俺、物凄い情報仕入れてん!」
「……物凄い情報だ?」
「せや! 二学期も始まってはや一カ月。そろそろクラスにも飽きが来始めた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?」
「何で時候の挨拶? っていうか、飽きがき始めたのは二学期始まってからじゃねーよ。お前の顔なんか既に十分見飽きてるし」
「それは流石に酷ない!? と、とにかく! 今度ウチのクラスにめっちゃ可愛い転校生がくんねん!」
「……」
めっちゃ可愛い転校生……ね。
「あれ? コタロー、あんまり驚いてへんな?」
「そんな事無い。エーマジデ、メッチャビックリシタ~」
「なんやその下手くそな演技。知ってたん?」
「知ってるって言うか……」
あー……やっぱりといえばやっぱりだ。まあ、もしかしたらユメとは違う転校生の可能性もなしじゃない。なしじゃないけど……
「? ほんまにどないしたん、コタロー?」
……どうしよう。でもまあ、どうせばれる事だし、言っておいた方がいいのか?
「実はな……」
「はーい皆さん、席について下さい~」
俺が修斗に事情を説明しようとした所で、前方から声が聞こえる。
「おはよう! 連休は元気に過ごしたかな?」
担任の遠藤由香里先生がにこやかな笑顔で教室に入ってくる。大学卒業したばかりで年齢も近く、さばさばした性格で『由香里ちゃん』、或いは『姉御』との渾名で大人気の先生だ。ちなみに『動物モノのドキュメンタリーとか見たらもうだめなの~』と、想いだして話すだけで号泣するほどの感動屋さんでもある所も魅力の一つだったりする。
「さて、それじゃホームルームを始めますが……その前に!」
そう言って教室をぐるーっと見回す姉御。その眼が楽しそうに笑っている。
「今日から君たちに新しい仲間が加わることになりました! よろこべ男子ども! 可愛い女の子だ!」
おーっと言う歓声が男子の中から上がる。歓声を押さえる様にまあまあと手を振って姉御が続ける。
「北海道の方から転校して来たそうよ。随分急な転校だけど、まああんまり気にせず仲良くしてね」
先生の言葉に今度は女子の輪からひそひそ話が聞こえてくる。まあ、連休前までそんな話は一切なかったからな。そりゃ驚くわ。
「せんせい~。なんで転校してきたんですか?」
「詳しい話は先生も知らないの。今日の職員会議で急に聞かされたから。まあこのクラスは仲が良いのがウリだから、みんな仲良くね!」
そう言って姉御はちらっと俺に視線をやり、いたずらっ子みたいな笑みを浮かべ、ドアに手をかけた。
「入っておいで」
開かれたドアから、天英館の制服を着た美少女……一瞬、違う子だったらいいな、とか思ったけど残念ながら、入ってきたのは――
「みなさん。おはようございます。北海道の折が丘高校から転校して来ました、葛城ユメと申します。皆様に色々とご迷惑をおかけすることになるかもしれませんが、よろしくお願いします」
……ですよね~。
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